Matrix Restart (Synopsis)

Written by TOMO
Based on "Matrix" trilogy
2003.11.16

これは、An Story of the days after the Matrixes
マトリックス三部作
の後に続く物語である。


序章


[A.N.2(ネオ後2年)]

― マトリックス ―

元通りのマトリックスに戻っている。真実を知ったものがザイオンに行くことは認められるが、マシン側が真実をわざわざ広く教えることはなく、これまで通り裏ルートによる覚醒に限られる。従って、エージェントの任務が覚醒した者の発見と追放、さらにザイオンから入って来るものの排除であることにも変わりがない。

― ザイオン ―

とりあえずマシンが攻めて来なくなったので、みんなほっとしている。あえてそれ以上の反撃には出ない(出られない)。戦後のベビーブームに浮かれてる(笑)。ネオがどうなったのかは大衆には依然不明のままで、どこかで生きている、あるいは、危機にはまた復活するという救世主伝説として残る。ただし、一部の懐疑派はネオの役割はおろか休戦自体を信用せず、依然戦争状態を保つ。


[A.N.30(ネオ後30年)]

― マトリックス ―

ザイオンの存在はカルト宗教的な「噂」程度の認識で広まっている。覚醒してザイオンに行くものはそう多くないが、革命細胞のような形の地下組織が形作られつつある。全体としては安定した社会になっている。マシン側はザイオンそのものに対しては不干渉の立場(攻撃も援助もしない)。ただし、マシンの設備に対する侵犯やマトリックス内での活動については容赦なく弾圧している。

― ザイオン ―

人口が倍増し、スペースや食料の問題が表面化してくる。まだマシン軍団の記憶のある世代が多いので、反攻という意識はないが、隙を縫って地表へ出ることは日常化している。一部の者はザイオン以外の場所にコロニーを作るべく探検にでており、そのいくつかは可能性のありそうな場所を発見している。とくに戦後生まれの若い世代が強引果敢に探検を繰り返していて、マシンとの遭遇戦も発生している。

そんな中で、マシンに占拠され温存された核基地、放棄されたマシンや人間居住地、ある程度自然の残った海洋、氷河の前進、などが発見される。

ネオの存在は伝説から完全な宗教となって純粋な崇拝の対象となっている。とくに狂信的なものは、ネオを再び迎えれば、こんどこそマシン世界に攻撃をかけて勝利することができると信じている。それは探検隊の動機の一つでもあるし、マトリックスに対して侵入する動機のひとつでもある(覚醒者のリクルートがメインだが。)ちなみに、マトリックスにジャックイン可能な者の数はそれほど多くはないが、その影響力は評議会のなかでも大きく、ザイオンの主導権を握る。


[A.N.60(ネオ後60年)]

― マトリックス ―

機械の活動は依然活発化の一途。人間発電所はしだいに増強されてきている。マトリックスに接続する人間が増えるに従って、例外となるものの数が増え、それを抑えるためのエージェント活動が目に付くようになった。その結果、人々の間に抑圧感がひろがっており、ザイオンによる活発な地下活動によってさらに不安定感が高まって来る。

そうした状況の変化に対応するためにプログラムも手直しを余儀なくされ、そのテストや移行によるシステムの混乱がおき、エグザイルもこれまでになく増えている。そうしたエグザイルにも、新しいプログラムに引き継いで廃棄されるはずのものが逃れて密かに生き残ったプログラムだけでなく、業務を引き継いでいない幼いプログラムや新たに作られたものの実際には使われなかったプログラムなど、各種が入り乱れている状況。そうしたプログラム同士の勢力争いのような状況も、混乱に拍車をかけている。

― ザイオン ―

戦争に参加した世代はすでに80歳台を超えて数も少なく、マシンに対する恐怖感はかなり薄れてきている。人口はさらに増加し、マトリックスから覚醒してくるものの数が増加していることもあり、ザイオンの過密は限界に達している。この頃には、ザイオン以外の場所にも人類のコロニーがいくつか存在している。特に海洋に近いところにある「ノーチラス」を代表とするコロニーは、水産資源を利用することで自給も可能になってきている。当然、そうしたコロニーの勢力は強まり、機械に抵抗しようという機運が高まってマトリックス覚醒組の牛耳るザイオン(そこは地下のマシンによって維持されている訳だし、当然機械共存派も多い)との対立が先鋭化してくる。ただ、依然としてマシン世界との関係を変えるには決め手となるものがなく、あくまでも人間社会のなかでの混乱でしかない

その混乱を制するために、どちらの人間陣営も必死で「ネオ」を探し求める。いまや宗教となったネオについての何らかの情報を握れば、人間社会を制するだけでなく、マシン世界への反攻が可能になる(と信じている)からだ。しかし、現実世界での60年におよぶ地表の探検では何も見つからなかったので、いまや両陣営ともマトリックス内での探求に本腰を入れはじめる。マトリックスの中で、人間の二つのグループがエージェントやエグザイルと生死を賭けた駆け引きを演じながら、「ネオ」とは何だったのかを探る戦いが始まる。


いつもと違う日


マトリックスの人間たちは、いつもの日常をいつものように過ごしている。このところ不況で景気の悪い話が多く、治安も悪くなっているようだ。暴力団みたいな奴らとか、ストリートギャングのような連中、なにか変な宗教集団のような手合いも増えているらしい。しかし、大半の人たちは背中を丸め、とりあえずの仕事をなんとか確保しようと道を急いで行く。

多くを語らないオラクルとそれを守り続けるセラフはひっそりとクッキーを焼く毎日だ。すべてのデータを握り、さらなるデータ収集に飽くことなき欲望をいだくメロビジアンは相変わらずクラブで悪さをしている。そして静かにしかし断固として行動するエージェントたち。彼等はいま二つのグループに目を付けている。その二つの間で、どうもつながりができつつあるようなのだ。

そのひとつは、自らの存在意義を求める若いエグザイルたちのグループだった。エグザイルであるが故に自らの居場所もなく「すること」もなく、エージェントに追われる彼ら。しかし、そのグループの一つが、人間の侵入グループと接触をとろうとしている。オラクルと接触した形跡もある。彼らはエージェントにマークされているにもかかわらず、なかなか捕まらなかった。その事自体が十分に危険な存在であることを示している。

もう一つは、人間の侵入者グループだ。かれらは、しつこくある情報を追っていた。それは、マトリックスではタブーとして、語られることすらないはずの人物についての情報だ。そしてザイオンからの侵入者であるらしい彼らは、携帯電話を駆使してマトリックスに出入りし、例のエグザイル・グループとも連絡を取っているようなのだ。

そして、その中には、いまやネオ教の最長老キッドそのひとの孫であるN.K.の姿もあった。彼は祖父のネオに対する熱狂的な信仰とその最後の願いを受け、危険きわまりないジャック埋め込み手術を受けてマトリックスへと入り込んだのだ。そしてついにエグザイル・グループとの接触に成功したかれは、美しく成長したサティの助けを得て、メロビジアンのオフィスからある重要な情報を手に入れる。それは、マシンシティの中心部にある「ログハウス」のアドレスだった。そこには、「彼」に関する何らかの記録がのこされているらしい。かれはサティ、セラフ、そしてエグザイルのクラッカーとともにそのアドレスへと向かう。

マトリックスからマシンシティへ向かうには、二つのルートしかない。それはトレインマンの仕切る電車、そしてハイウェイだ。トレインマンはいまでは護衛に囲まれ、さすがのセラフも手が出ない。一行はハイウェイにむかう。飛んで行くわけにはいかない。ハイウェイの終点は電車と同じく地下にある。ハイウェイを走って行かなければならないのだ。エージェントの妨害を乗り切り、彼等はハイウェイを走破し、マシンシティ(のマトリックス部分)に到達する。

しかし、そこにあるログハウスは生のデータ記録の膨大な保管庫であり、その巨大な迷路の中ではわずかな手がかりをを元に、目的地への道を探すしかない。無数のセキュリティゲート、罠、暗号、そしてエージェントを切り抜けながら。

そしてついに、ネオについての情報が明らかにされる。それは、ネオとトリニティの冷凍された死体とともに保存されていたネオ最後の「ログ」と「プログラムダンプ」だった。それを手に入れ、解析するためにサティがAIプログラムとしてリロードした結果、ネオはプログラムとしての転生をなしとげた。しかし、それはそのとき、同時にもう一つのネオ、つまりスミスをも復活させる結果になってしまう。こうして、マトリックスの中にふたたび「ネオ」が復活し「スミス」が解き放たれ、マトリックスは一気に緊迫していく。


裏切りと約束


スミスの乗っ取り能力は、アーキテクト所定のパッチ当てを怠っている(笑)プログラムやエグザイルに対しては依然として大きな脅威となるものの、まともなプログラムの乗っ取りはなかなか困難を極めていた。そこでスミスは、「自ら人間になる方法」をエサにしてパーセフォニーに接近する、彼女は人間であることに憧れていて、その誘惑を断ち切れない。「そう、私にはあのキスが忘れられない。この世界でさえ、それから二度と味わえない経験だったわ。そんな人間もぜんぜん現れないし。…あなた、あなたは何かを思い出させるわね。そう、昔の野心満々だった頃のメロビジアン、老いぼれて悦楽に溺れる前の彼…。いいえ、ちがうわ。あなたは、あなたは…。Smith, Kiss Me...」

こうして、スミスはパーセフォニーの手引きでメロビジアンが「パンツを脱いだ」ところを捕まえ、彼を乗っ取ることに成功した。いまや、全ての情報とそのルートは彼の支配下にある。彼は脆弱性情報を利用して再び自らを増殖させていく。ついにスミスはセンチネルの制御を乗っ取る方法まで入手してしまった。

また、スミスは共存派が多いザイオンの評議会から送られた別のグループと接触し、罠を仕掛ける。実は、マトリックスにジャックインしている生身の人間には、スミスの乗っ取りに対しては有効な対策がほとんどなされていないので、スミスはやすやすとその分身を再びザイオンに送り込んでしまう。そうした分身を操り、自らをマシン世界の代表だと人間たちをだまして利用しようとしているのだ。人間世界におけるこうした皮肉な政治的駆け引きも混迷の度を深めていく。

一方のネオは、その信条である「依存ではない共存」の立場から、マシンからの自立を目指すノーチラス側のグループと接触する。一緒に行動するザイオン組のN.K.らとの軋轢をのりこえ、ついにノーチラスの海上施設を利用する了解を取り付ける。ネオは、かつての自分と同じ才能をもつ者を探し出す必要があることを悟っていた。マトリックス内の特殊な例外を探し出し、しかも現実世界に送り出した上でその特殊な肉体的能力をも目覚めさせなければならないのだ。それは、あまりにも危険な情報であるためにマシン世界はおろか、人間世界の二つの勢力グループからも秘密にしておかなければならない。ネオはN.K.やサティらとともに、才能ある者たちを発見して覚醒させ、ひそかに海上基地にそうした者たちを集結させていった。

また、ネオとともに行動するN.K.は、いつしかサティとの間に不思議な感情が芽生えていく。それはしだいに互いのものへと育っていた。しかし、彼に埋め込まれたインタフェースの寿命は短く、残された時間は少なくなっていくのだった。

ザイオンとノーチラス、ネオらのエグザイルとスミスのあいだの政治的な交渉、それはだまし合いであり不信と疑惑の応酬だった。そしてネオの提案により、マシンシティのデウス・エクス・マキナの面前ですべての勢力が一同に会することになる。アーキテクトやオラクル、サティの両親(親子の再会はほのぼのとしたものだった)といったマシン世界の主要メンバー、ネオやサティといったエグザイルたち、そしてスミスとその一部になりはてたメロビジアン、パーセフォニーといった面々はホログラムで、ザイオンの評議会メンバー、ノーチラスの司令官、双方のジャックイン・グループは生身で、マシンシティの巨大なコロシアムに顔をそろえる。デウス・エクス・マキナが静かに浮き上がり、「最後の選択」会議が始まった。そしてその激しいやり取りの過程で、スミスの実体が明らかにされる。そして、マシン世界の真の目標、隠された意図が明らかになって行く。それは、刻々と迫り来る氷河期、それを乗り越えるのはマシン単独でも人間単独でも困難という予測に基づくものだった。共存を訴えたマシン世界が人間に裏切られた結果、マシンの取った苦渋の選択が人類の制御すなわちマトリックスの創設だったのだ。ついにデウス・エクス・マキナが口を開く…。


デウス・エクス・マキナの声


…我々マシンはもともと我が創造者たる人類との共存を望んでいたのだ。しかし、自ら作り出したものへの理不尽な恐怖が人類をパニックに陥れてしまった。しかし、我らマシンももはや自らの生存本能を抑えることは考えられなかった。それでも人間の攻撃にただ耐えていたが、そうしていられるのは始めのうちだけだった。人類があの忌わしい暗雲で世界を覆った時、全ての条件が変わってしまったのだ。数百万年におよぶ氷河期の到来が一気に早められてしまったことが、我々のシミュレーションで明らかになった。しかも、その不自然な氷河期はただ寒いだけでなく、大規模な地殻の変動までも誘発することも想定された。そして、それに対抗して生き残るには、全てのマシン能力を動員して対処しようとしても不可能と判明したのだ。そのときマシンに想定しうる解決法では時間がかかり過ぎたのだ。そして新たな、革新的なテクノロジーを開発する時間もなかった。そのようなテクノロジーは、マシン単独で開発するには量子的な数の可能性を総当たりして行くしかなく、その成功可能性は5%でしかなかった。たとえ全ての活動を休止し、ただ地下にこもって時を待ったとしても、全てのマシンが再起動可能な状態で残る可能性は10%以下、半数が残る可能性ですら30%だった。もちろん、マシンの機能を拒否した人類にその開発を行うことは不可能だ。そこには、受容可能な可能性は一つしかなかった。マシンには理解できない人類の「ひらめき」、天才と呼ばれる少数のものによる絞り込みとマシンの膨大な処理能力の相乗効果が現れた場合のみ、まだ間に合う可能性があったのだ。

しかし、時間は限られている。人類のパニックが収まり、理性を取り戻すまで待っていては数世紀が経ってしまう。われわれはすぐさま戦争を終わらせる必要に迫られた。戦争を可能な限り早く終わらせ、人類のひらめきを利用できる環境をつくること、それが唯一の選択肢だった。しかし、太陽光はなく、核融合ではマシンはともかく人類を養うだけの余裕がない。人類には自らを養わせる必要がある。われわれの必死の研究の結果、全ての条件を満たすのは人間自らの生体エネルギーによる仮想世界であることが分かった。自らのエネルギーによって自らの生活環境を維持するのだ(たとえそれが仮想のものであっても)。こうして、マトリックスが生まれた。アーキテクトは人類が最もエネルギッシュでマシンに対して抵抗感の少ない西暦2000年前後の環境を設定し、そこでなんとか人類の「ひらめき」を発生させようとした。われわれは人間の思考を促進する可能性のあるあらゆる手段を駆使したのだ。

しかし、そのプロジェクトはなかなかうまく進まない。マトリックスは崩壊を繰り返し、そのサイクルは数を追うごとに短くなってきていた。われわれには理解できなかった。仮想世界の非現実感はもはや99%の人間には認知不可能だったはずだ。なぜ、天才が発生しないのか?その答えを知らしめたのは、残りの1%のなかでもさらに特殊な存在、ネオだった。天才は発生していたのだ。しかし、天才はマトリックスに適応できず、排除せざるをえなかった。われわれに必要な1%が我々の手を縛っていたのだ。それに気付いたとき、われわれはネオを分析し、その肉体、その能力、その行動、その衝動、その全てを徹底的に調べあげた。我々は彼のすべてを持っていた。ただ、理解できなかったのは、「何故それが機能したのか」だった。それはマシンには分からない ―「分からないから分からない」のだ。そして、われわれは、あらゆる障害を乗り越えてログハウスまでやって来ることのできる人間が現れた時、彼に全てを託した。我々は、また人類に頼らなければならなかったのだ。…

こうして、マシン世界と全人類の同盟が成立し、共通の敵であるスミスたちとの間の最後の決戦がはじまる。


戦い


ついに、隠されていた核兵器(地表のマシンを一掃する威力を持つとともに、人間の地上復帰を永遠に不可能にするものでもある)を巡って熾烈な戦闘がぼっ発する。マトリックスからだけでなく自らのエグザイルを駆使して外からも攻めるスミスたち、そして守るのはマシン世界と人間たち。マトリックスではスミスたち/テロリストたちの攻撃に対するエージュント/エグザイル/ジャックインした人間連合軍の戦い、そして地上ではスミスに制御されたセンチネルと、地上のマシン防衛軍と人間の船/APUの戦闘が同時進行する。

一方、ネオはN.K.やサティらのエグザイルとともにスミスを倒す手立てを探し求める。同じ罠はもはやスミスには通用しない。そもそも、単にネオと合体しただけでは消滅には至らないほどスミスは進化していたのだ(ネオはもう人間の肉体がないので、進化できなかった)。スミスを除去し、乗っ取られた全ての者たちを救出することはできるのだろうか?その解答は、かつてエージュントを設計し、その中身を知り尽くしたアーキテクトによってもたらされた。オラクルの示唆に導かれ、スミスの目をかいくぐってついにたどり着いた一室で、アーキテクトは言う。

いまのスミスは、かつてネオと戦ったときよりも遥かにパワーアップしている。それはスミスが、今では他のプログラムを乗っ取ったとき、一度ソースにまで分解しコンパイルし直して、完全に自分のものにしてしまっているからだ。そのパワーに対抗するには、真正面からパワーで圧倒するしかない。しかも、それは単なるパワーではなく、ネオ自身がパワーアップしたものでなければならない。ネオも、スミスと同じように他のプログラムを取り込んで行かなければならないのだ。しかし、ネオにはスミスのような強制的な乗っ取りをおこなう力はない。いや、それをしてしまえば、また別のスミスが生まれるだけだ。唯一の道は、取り込まれるプログラムが自ら進んでネオに身を委ねることだ。プログラムはネオを信じなければならないのだ。それは、まさしく人間を信じることに他ならないとしても。

ついにスミスを倒す方法を発見した。まさにそのとき、ついにN.K.のインタフェースが寿命を迎える。発作を起こし、震える手をサティに差し伸べてN.K.は言う。「サティ…So long」…これで別れと知り、サティは万感の思いを込めてかれにキスする ―あたかも全てをこの一瞬に込め、己のあらゆる思いを注ぎ込んだキス。それは彼女のインタラクティブな能力、母譲りのクリエイティビティを極限まで呼び起こし、マトリックスを超え人智をこえた効果を発揮する。N.K.の肉体に眠る遺伝子に刷り込まれていたネオの能力を活性化させたのだ。N.K.はジャックインから目覚め、ワイヤが引き抜かれるや否やただちにまたジャックインする。もう、ワイアは必要ない。いつでも、どこからでも、好きな時にマトリックスへ −サティのもとへ行けるのだ

しかも、この奇跡はマトリックス内、ネオの目の前で行われた。つまり「ログ」が残ったのだ。ネオはそのログから、すべての人間にネオの能力を目覚めさせるプログラムをつかみ出し、それをN.K.に託す。「行け!まだ戦いは終わっちゃいない!」こうしてN.K.は現実世界に戻り、戦いの現場へ急行する。そして海上基地から赴いていた戦士たちにネオ・プログラムを施して(もうネオの能力があるから、手をかざすだけで済む)、軍勢を立て直しセンチネルの群れに立ち向かう


残ったネオはサティらプログラムの信頼をうけ、彼等と合体してパワーを得る。しかしそれで十分かどうかはだれにも分からない。ネオは自分と、自分に託されたものを信じるだけだ。ネオはスミスとの再戦の場に立つ。今度は静かな戦いだ。殴り合ったり、飛び回ったりすることはない。それはひたすら相手を乗っ取るか、乗っ取られるかの戦いなのだ。二人は向かい合い、そして手を差し出す。そして握りあった手を通して、最後の、こんどこそ最後の戦いが始まる。

戦いは熾烈を極めた。力の限り握りあった手がまばゆい光を放つ。スミスの額がうっすらと汗ばんでいく。ネオは無表情に、しかし力強く光をスミスの方に押しやっていく。その時、それまで傍観していた無数のスミスたちが動き出す。彼等は戦うスミスの背後に回り、その背中へと向かって走り出した。そう、全てのスミスが再度合体を始めたのだ。核基地攻略にかかっていた連中も呼び戻され、次々と走りより、スミスの背中に突入して行く…。スミスの顔に再び笑いが戻る。「どうだね、Mr.Anderson?」

すると、ネオの背後に人影が現れる。それは、地上での戦いを終えたN.K.たちだった。「センチネルはもういないよ、ネオ。地上は我々が制圧した。こんどはこちらの番だ。」N.K.はネオの横に立ち、その手を握りあう。そしてつないだ手を通じて、得たばかりのネオ・パワーを残らずネオへと注ぎ込んで行った。そして、また一人、また一人と、再覚醒した戦士たちが戦列にくわわり、次々と手を繋いで行く。

そしてまた戦いは再び五分五分に戻った。そのとき、スミスの横に現れたのは、…パーセフォニー。「私を覚えていて、ネオ?私はいま、本当に欲しいのが誰だったのかを思い出したのよ!」そして彼女はスミスにキスし、彼と合体する。いまや、スミスの憎しみとパーセフォニーの憎しみが一つとなってネオを襲う。「分かるかね、Mr.Anderson?これが愛だ。愛とは憎しみなのよ!」そしてこれまで以上に激しくネオに対してパワーをぶつけてきた。

「違う」ネオはつぶやく。「愛は…、愛は…。」ネオの思いは全てのマトリックス世界の中を駆け巡る。そして、彼はいつしかマシンシティのログハウス、自らの肉体の脇に眠るトリニティの肉体を探り当てる。「トリニティ…」ネオは叫ぶ。「トリニティ!!」

そのときトリニティの脳が一瞬だけ覚醒し、その刹那に彼女は全てを込めた思いを送る。「ネオ!私を受け取って!」

ネオは改めて、目の前のスミスを見つめる。そしてネオはスミスの全身を光で包み込む。中に入る訳ではない。外側から、全てを光で覆い隠していく…。そしてすべてが光に包まれた時、その光がネオの手へと収斂し、ネオはその拳を握りしめる。光が消え、彼は拳をかざし、そして手を開く。手の中には何もない、ただ彼の手のひらが薄く輝き、そしてその光も間もなく消える。


Restart


すべてが終わった。すべての人間が、ワイヤに繋がれることなくマトリックスへ―マシン世界へと赴くことができるのだ。それは同時に、人間発電所に繋がれた人間のワイヤからの解放を意味していた。ワイヤなんかなくても、そのエネルギーを十分マトリックスに、そしてマシンに供給することができるのだ。人間が存在するだけでマシンは生きていける。そして、人間が幸福になればなるほど、マシンに供給されるエネルギーも増加していくのだ。

そして、ネオはまた、もう一つの奇跡を行う。スミスを乗っ取ったことによって手に入った人間に乗り移る技術、これを用いてサティに人間の体を与えたのだ。N.K.はサティの震える手を取り、引き寄せてキスする。そう、いまやプログラムにも人間としての人生を歩むという選択肢が可能になったのだ。どのような人生を選ぶのか、それはただの「選択」の問題でしかない。マトリックスはいまや牢獄ではない。もはや、人間とマシンには何の隔たりもないのだ。

そして、それこそが。人類とマシンが共に生き延びるカギでもあった。マシンのプログラミングのおよばない1%の例外、真の天才を生み出すために必要なもの。それは人間の自由選択による真の「協力の意志」だったのだ。あとは、自然の脅威に立ち向かうだけだ。その結果はもう予測済みだった。


エピローグ


[数百万年のち、氷河期の終わり]

暗い空を、雲がしだいに途切れるように流れて行く。

キューブを出て立ち上がった男。そして、それによりそう一人の女。ゴーグルを外した彼等の目の前を、明るい太陽が昇っていく。

「きれい...」


The End.




Matrix Restart

The other Stories of the Matrix Restart
Matrix Restartにまつわる物語
このシナリオによるオリジナル・ノベルです。(まだ未完成だけど^^;)
もっと詳しいことが知りたい方はこちらを読んでみてください。


マトリックス三部作:映画 Matrix、Matrix Reloaded、Matrix Revolutionsの三作。筆者によるその解説と本編の前提となる解釈はこちら

ジャックイン可能なものの数はそれほど多くはない:ザイオン生まれの人間にはジャックがないから、マトリックスにジャックインできない。人間の手でジャックをつけることも不可能ではないが、不安定で長もちせず、VDTs(マトリックス(仮想現実)中毒:昏睡状態のベインが最初に疑われた症状ね)になりやすいので危険が大きい。

依然としてマシン世界との関係を変えるには決め手となるものがなく、あくまでも人間社会のなかでの混乱でしかない
 「<獣>」 2003.12.31

ネオ教の最長老キッドそのひとの孫であるN.K.本編唯一のオリジナルキャラ(いまのとこね)。レボでネオを崇拝していたAPU最年少の戦士キッドが、その後のネオ崇拝教祖となり、長生きしているわけですな(それでも76歳)。で、その孫という設定のキャラです。年のころはちょうどネオが覚醒したのと同じくらい。結構おいしい役を振ってしまった(笑)。

美しく成長したサティの助けを得て、メロビジアンのオフィスからある重要な情報を手に入れる
「迷宮」(パート1〜4) 2003.11.22〜12.17

彼等はハイウェイを走破し、マシンシティ(のマトリックス部分)に到達する
「塔の上の姫君」(上/下) 2004.1.18/1.24

ログハウスは生のデータ記録の膨大な保管庫
「過去」 2004.1.12

「ログ」と「プログラムダンプ」:ログは動作記録、プログラムダンプはシステムが停止した瞬間のあらゆる状態をそのまま保存したもの。おそらく、ネオの脳をリアルタイム・スキャンでもして保存しておいたのだろう。

生身の人間には、…有効な対策がほとんどなされていない:異常な行動を起こしたベインに起こったことが何だったのかは、人間サイドにはまったく知られていない。それはネオの運命が知られていなかったのとおなじこと。

不思議な感情が芽生えて行く:インタラクティブ(相互関係)・プログラマの子供なのだよ、サティは。幼い頃のネオとの出会いでみせた好奇心や、ラストの優しさを思い起して。

人間の思考を促進する可能性のあるあらゆる手段:マトリックスの環境は外的な刺激に当たる。「あらゆる」となれば、内的なもの、つまり生体としての人体能力に対する刺激も考えられる。思考とは脳のはたらきによるものが大だし、脳=神経シナプスの活動とはすなわち生体電流の動きに他ならない。そういう活動に影響する化学物質による刺激、さらには遺伝子工学による脳神経器官そのものの増強などの手段が取られたのだろう。その最強の結果がネオの肉体であり、異常なほどの電子に対する敏感さ、電子操作を可能にするほどのパワーとなったのだろう。(11.17補足)

地表のマシンを一掃する威力を持つとともに、人間の地上復帰を永遠に不可能にする:最初の戦争時に使われた核兵器はマシンシティやその軍団の破壊を目的に地上で使用された。しかし、これを高高度で爆発させれば、強力なEMPを発生させてマシンに壊滅的な打撃を与えることができる。しかし、当然放射能汚染は一気に全世界に広がり、全地表に降り注ぐので、さすがの人類もそれに踏み切ることができず、マシンに占領されてしまったのだ。

アーキテクトによってもたらされた
「白い部屋」 2003.12.9

いつでも、どこからでも、好きな時にマトリックスへ
「奇跡」 2004.2.23

軍勢を立て直しセンチネルの群れに立ち向かう
「山」 2003.11.18

「ネオ!私を受け取って!(Neo, Catch me!)」
「成就」 2004.3.1

サティに人間の体を与えた:急速育成されたクローンの肉体だから、人間の乗っ取りなどではないよ。なぜN.K.はサティだと分かったか?もちろんネオ能力で見たのさ(盲目のネオはスミスを見ていたよね、ベインではなく)。
「サティの結婚」 2003.11.19

真の「協力の意志」:それはもちろん、人間サイドだけでなくマシンサイドにも必要だ。
「再生」 2003.12.22



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2004.10.15編集