Matrix最終解説

Since 2003.11.6 Updated:2004.1.27

映画 Matrix で Revolutions まできたけどやっぱり落ちこぼれて迷子になった人のための解説です。マトリックス・レボリューションを見てない人はネタばれなので読まない方がいいよ(笑)。

基本的にZion/人間サイドに込み入ったところは何もなし。たんなる戦争CG映画ですな。ということでそっちの解説はしません。分かりにくいのはやっぱりMatrixからみなので、そっちを中心に、「要するになんなの?」とか「なんでそうなるの?」とかの「どっから持ってきたんだぁ?」というあたりを解説していきます。なお、あくまで私(TOMO)の解釈、ただの深読み(?)なので、あしからず。


Matrix キャラ解説
エージェントについて補足を追加(2003.12.28)

で、とどのつまり…(ネタばらし)

その後の展開に関係のありそうなネタ

補遺:リローデッドより、ネオとアーキテクトの会話(対訳)

補遺:レボリューション台本 全文対訳(訳:TOMO)

補遺:台本(英語)全文へのリンク

補遺:理屈っぽい人のための参考文献

Matrix最終解説/Matrix Restart Q&A(2006.12.10追加)

あとがき:この「解説」の基本方針についてのご注意とお願い(2003.12.2)
 

特別付録

Matrix Restart (An Original Story of the days of the Matrixes)
勝手に続編のあらすじを作ってしまいました。設定やキャラはここで解説しているものをそのまま使っていますが、ストーリーそのものは完全なオリジナルです。あくまであり得る可能性の一つの姿。選択するのは、あなた自身。(2003.11.16)

Matrix Restart - Side Stories (The Other Stories of the Matrix Restart)
Matrixes Restart にまつわる物語(サイド・ストーリー)です。(2004.5.12更新)

おまけ:TOMOの Matrix解説/Matrix Restart ご意見ボード
専用の掲示板を設置しました。ご意見・ご質問などありましたらこちらへ。ただの足跡つけでも大歓迎です。ゲストブックがわりにどうぞ。(2003.12.18)

おまけ 2:Matrix Restart / Side Stories Vote Ranking
投票・ランキングページを設置しました。気に入った作品があれば投票してください。できればコメントもよろしく。(2004.1.27)
 
 



Matrix キャラ解説

訳のわかんないMatrix内のキャラ解説です。他は普通の人間ですから、普通に考えれば分かるでしょ。

●アーキテクト

Matrixを設計しているプログラム。ハードウェアとソフトウェアの両方を設計・製造・制御することができる。実際の細かい実行作業は、さらに別の下位プログラムを作成して任せている。基本的には「純粋な論理」に基づいて動作する。

●オラクル

アーキテクトが作成した下位プログラム。論理では割り切れない人間(精神)を収容するMatrixを維持するために、「偶然(チャンス=不確定性)の結果」に基づいて動作する。人間をMatrixに適応させることが使命であるが故に、一見人間寄りの立場に立つが、あくまでアーキテクトには扱えない曖昧な領域(=人間サイドの選択の余地)を確保するのみで、実際の結果には関与しない。つまり、「オラクルの目」(メロビンジアンの欲しかったものでもある)には「なにが起こりうるか」をあらかじめ見る(予見する)ことができるが、それが実際に起こるかどうか、それがどういう意味をもつのかはオラクル本人にも分からないわけだ。それでも、論理プログラムも人間も気付かない「可能性」を提示することによって、選択の幅を拡げてくれる、という存在。

<補足>アーキテクトが「論理」つまりYes/Noの二者択一(アインシュタインの言う「神はサイコロを振らない」)、オラクルが「偶然」つまり常に確率的50%、あるいは量子的不確定の状況(シュレーデンガーの猫は生きているし死んでいる)を扱う。それに対して、人間は「自由意志(抽象概念)による選択」能力を持つという点が最大の差ということになるだろう。その意味では、量子論の「観察者が観察することによって結果が固定される」に近いアプローチだ。

●デウス・エクス・マキナ (ラスト、マシンの「顔」)

マシン世界の総合「意識」とでもいった存在。機能としてはアーキテクトとかなり重複するが、アーキテクトはMatrix=人間発電機用バーチャルリアリティ(これはマシン世界の一部でしかないことを忘れないように)の最高位プログラムであるのに対し、デウス・エクス・マキナ はMarixも含めてマシン世界全体の設計・製造・制御を行う最高位プログラム。

●その他のキャラ

人間でない者はみなアーキテクトの下位プログラム。データベース(メロビンジアン )、インタフェース制御(トレインマン)、暗号解読(キーメーカー)、娯楽制御(パーセフォニー)、発電所のリサイクルシステム(駅で会ったインド人)とその妻(インタラクティブ(相互関係)プログラマ)、などなど。話の進行上必要なキャラというだけで、基本的に話の本筋には大した意味がない。

<補足>何らかの形でアーキテクトの制御を離れたプログラムを総称して「エグザイル(はぐれもの)」という。オラクルやキーメーカー、そしてスミスがその最たるもの。キャラとなっているレベルのプログラムには自らプログラムを改変/創造する能力があるため、そのようなエグザイルを生む可能性がある。


●ネオ(Matrixの構成)

基本的には、リローデッドでのネオとアーキテクトの会話でネオが一体なんだったのかは一応ばらされています。と入ってもやたら分かりにくいので、いちおう解説。

アーキテクトは、人間という不確定要素を含むMatrix世界を安定させるために、オラクルを使って不確定性つまり選択の幅を設定する。ただ、それは可能性の幅であって、人間の選択によって初めて結果が確定する。ある意味では人間の自由意志による選択を反映してMatrix世界に影響を及ぼすシステムの必要があるわけだ。では、人間の選択をどうやってMatrix世界に反映するか?アーキテクト/オラクルはそのための機能をプログラムし、人間に植え付けた。それこそが実はネオが携えてきたプログラムコード、救世主機能なのだ。99%に人間はその機能を想定された(つまり論理と可能性の)範囲内で利用し、Matrixで安定した人生を送って行く。しかし、残りの1%は例外としてMatrixに適応できず、許容枠の外にはみ出してMatrixの崩壊をもたらしかねない影響力を持つ。素早く動いたり空を飛んだりというように、規則を無視したスーパーマンとして振舞えるのはそういう訳だ。そうした連中はMatrixから放逐されてZionへと移って行く。つまり、「覚醒」は実は不適応分子の粛正処理に他ならないのだ。Zionはそうした連中(とその子孫)が集まっているわけだから、その勢力が強くなればなるほどMatrixへの危険性は高まって行く。

とはいっても、そのままでは単に異常な行動分子というだけだし、Matrix側でも対応することができる(つまりエージョントによる弾圧ね)。ところが、ある程度の期間の間には確率の問題でさらに特殊な(というか強力な)例外が発生する。普通の例外はせいぜいスーパーマン程度なのだが、この超強力な例外は「神」の力を手にしてしまう。つまり、世界を作り変えてしまうことができるのだ。Matrixを構成するプログラムコードを目にし、自分以外の存在(プログラムも人間も)に対しても影響力をもち、なにより世界の掟(生と死、過去と未来、、、)に対しても抵抗し破壊する能力をもつ存在。それこそが、The One―救世主その人なのだ。おそらくはZionが育ち、Matrixに対する影響力が高まってきたことも、その出現を助けているのだろう。そして、救世主の出現により、Matrixの例外許容量が限界に達し、それまでに溜まった不整合要素をすべてクリアせざるを得なくなる。Zionの消去と再建、Matrixシステムのシャットダウンと再起動、そして救世主機能のリロードが必要になるのだ。

救世主というのは、最も強力な例外つまり変動の最大値だから、それをもとに救世主プログラムをバージョンアップさせることによりより一層安定した世界を再創造することができる。ネオの持ってきたプログラムコードをソースに統合することはバージョンアップにはぜひとも必要で、だからこそその出現まではZionを生かし、じっと待っていたわけだ。当然、人間としてのネオ自体もそのために必要だから、かれは生き残って(ただし、救世主の機能をソースに返して(失って)から)、自分で選んだ人間とともに次のZionを再建することになる。

とまあ、ここまでがアーキテクトの設計したMatrix輪廻の構想。これを外れると、ZionのみならずMatrixに接続した人間も含め、全人類が絶滅することになるそうだ。マシンの生存には人間発電機が必要だろうというのは単にネオの意見(錯覚)だし、アーキテクトは否定も肯定もせず、人類が絶滅しても対応は可能なような事を臭わせている(まあ、それは望んでいないのも確かだけど)。いずれにせよ、これが標準的な、Matrixサイドの想定した救世主の姿なわけ。

ということで、本編の主人公ネオ6。もちろん人間。ただし、非常に特殊な能力をもつ天才(あるいは突然変異)により、救世主コードを限界(以上)に利用することができる。プログラムを読み取り(マト1ラスト、流れるプログラムコードが見えている)、干渉する(リアルタイムで書き換える)ことができる。実際は、電子的な情報の流れを(おそらくは漏えい電磁波の傍受するような形で)直接「感じる」ことができ、さらに同じく電磁的な干渉により情報をコントロールすることができるのだろう。通常はワイヤでジャックインすることによりこうした操作が可能になる。

ただし、このネオ6は肉体の感度がさらに増強されて、無線LANのような回線に直接同調し、ワイヤなし(つまりワイヤレス)でジャックインできるようになった(Matrixと純マシン世界の間を繋ぐ電車は情報の通り道(インタフェース)の暗喩。ちなみにネオが目覚めた駅は「MOBIL AVE(モバイル通り)」)。いったんジャックインしてしまえば、現実世界のハードウェアを制御するプログラムに干渉することはMatrix内と同じく簡単なこと。また、電磁波(=電子の流れ)に対する肉体感度が高いことは、盲目となった後にも周囲の機械(=電子回路)を「見る」ことができたことからもうかがえる(瀕死のトリニティは見えなかったことに留意。一方ベイン=スミスは異常な脳の活動(神経活動は微弱電流ですからね)のせいで見えたのだ)。


●エージェント・スミス

まず「エージェント」というヤツ。Matrix内で人間をコントロールするために作成されたアーキテクトの下位プログラムだ。基本的には例外となった人間を発見・矯正・追放するのと、Zionから侵入して来る例外に対応するのがお仕事。いつもつけているイヤホンはマトリックス・システムからの指令や情報を受けているが、オラクルの不確実性処理を組み込んで人間の(非論理的な)行動に自律対応できるように設計されている。これで、ジャックインした人間との対抗上同程度の超常能力(ビル間のジャンプなど)は発揮できるわけ。また、状況によっては、ドアを勝手にレンガ壁で塞いでしまったり、別の場所にいる人間がいきなりエージェントに変身して(乗っ取られて)動き出したりというような、システムぐるみの論理的な「ズル」もできる。システムモニターと自己修復機能に相当する。

スミス

こいつはもともとエージェントの一員だったのだが、ネオとの戦いの際にネオの持つ救世主プログラムコードが間違って転写された(ネオがスミスに中に入った時だね)。にも関わらず、そのままエージェントとして再起動された結果、組み込まれた不確実性処理ルーチン(すなわちオラクルの「血」)が暴走し、論理的な制限事項(自己増殖や現実世界への干渉などの禁止)が外れてしまったプログラム。その結果、人間をコントロールするという目的の優先順位が肥大化し、アーキテクト構想によるMatrioxの存続や人間の存在自体も否定し、全てを自己の制御下におくことを目論む。機能としてはネオと同じ能力を持ち、人格の部分が反人間(マシン)である点で、ネオの正反対、鏡像とも言えるだろう。

その上、他のプログラムを自分と同じモノに書き換えてしまう際には、相手の機能を自らに取り込んでいくので、増殖するに従ってますますパワーアップし多機能になってゆく。例えば、オラクルを書き換えて自らと同化させることによって予兆を見ることができるようになるわけだ(ネオとの戦いの結果はすでに見たと自信満々なのはそういうわけよ)。しかも、ひとつが新しい能力を得ればそれは自動的にすべてのクローンに反映して行くので、単なる増殖ではなくリアルタイムなエイリアスのような増え方をする。おそらく、スミスというプログラムは一つで、乗っ取った相手のIDを使って複数のプロセスを立ち上げるマルチ・プロセス型の動きをするものと思われる。さらに、リアルタイムあるいは一定時間内に各プロセスをリロードすることにより、オリジナルのプログラムに加わった変更を全てのクローンに反映させているのだろう。したがって、個々のクローンの破壊は他のクローンには影響しないが、どれか一つのクローンの書き換え更新は全体に波及するわけだ。

一方、人間(のMatrixキャラ)に対しては、接続回線を通じて直接人体にアクセスして脳細胞を改変し(ベインの脳は繊維質に変質していた)、自らをそっくり刷り込むこともできる。。エージェントの能力(モニタと修復)とネオのシステムに対する影響力を悪用したウイルスプログラムに相当する。


で、とどのつまり…

どーゆう話かっつーとですね〜。

【!!注意!!】ここからはエンディングのネタばらしなので、そのつもりで!

レボリューション?

アーキテクトのシナリオにも関わらず、状況はすなおに進まない。大きな要因は二つ。一つはスミスの暴走。もちろんこれもネオの例外としての行動の結果なのだけど、それがマシン側のプログラムにまで刷り込まれてしまうという所まではアーキテクトも対応していなかったみたいね。結果、スミスもまたMatrixに対する脅威になってしまった。そしてもう一つは人間としてのネオの能力、つまり現実世界でワイヤなしで電子に対する影響力をもってしまったこと。それが人間としての生物的な能力である以上、当然他の人間にも発生する可能性がある、ましてZionはネオの子孫とネオのような例外能力を持つ連中でいっぱいなんだから、それはもう時間の問題だね。それはともかく、ネオは現実世界からマシン世界と相互干渉を行うことができるようになってしまった。だからこそ、ネオは直接マシンシティまでたどり着くことができたわけだ。

そこで、MatrixとZionの両方に脅威となったスミスをやっつけるかわりにZionへの攻撃をやめるようマシン側にネオが持ちかけるわけですな。で、それでスミスとネオが戦うわけですが、素直な戦いではほとんど互角でなかなか勝負がつきません。で、最後にスミスがネオの肉体を乗っ取りにかかるのですわ。で、ネオはスミスになってしまうのですが、それはつまりネオの現実の肉体の脳細胞が改変され、そこにスミスが入り込む結果になります。普通の相手なら単純にスミスに乗っ取られるだけなのだが、そこは本編の主人公ネオ、そうは問屋が卸さない。スミスの乗っ取りは相手の機能を取り込むことに他なりません。ところが、オラクルがいみじくも言ったように、ネオとスミスは正と負のリバースツイン、合体はおろか共存さえ論理エラーで不可能、破綻するしかありません。というよりは、実際に起こったのは消滅 ―― プラスとマイナスを一緒にすると、相互に打ち消し合って差し引きゼロ。

蛇足:ここの解釈は色々あるみたい。見て最初に思ったのは、スミスがネオを乗っ取った(その時点ではネオはスミスに負けている)タイミングを見計らってデウス・エクス・マキナがネオの生身の肉体に攻撃を仕掛けて抹殺し、それに同期しているスミスも消滅して行く、というシナリオ。あるいは、デウス・エクス・マキナが生身のネオに入ったスミスを強行解析し、駆除プログラムを手に入れて逆襲、スミスを駆除していく、という解釈もあり得る。とはいえ、単にクローンの一つである生身のネオ/スミスを抹殺しただけで残りが自動的に消滅するというのはちょっと無理があるし、駆除プログラムならネオも生き残っていてもおかしくない。ま、実は死んでなくて気を失っているだけという可能性もあるが、出かける前のネオの悩み方やトリニティの読み(それになによりトリニティをあっさり死なせてしまっていること)から考えても、ひとり生き残るとうのはちょっとどうかな、と。たしかに、ネオに繋がったケーブルを通して脈々と何かが入って行くように見えるけれどそれは、プラスとマイナスのショートで抵抗無限小、打ち消し処理にもで電力を喰うということではないでしょか。

もちろん、ネオはすでに(まあ、そこはオラクルの助けで)予兆を見ているので(Matrixから帰ったあと、マシンシティに続く三本の送電線を「思い出し」ながら一人悶々と悩んでいる)、一蓮托生で道ずれにすることははじめから(マシンシティに向かうと決めた時から)承知の上。トリニティが見破ったように戻るつもりのない旅、デウス・エクス・マキナに向かって断言した負けるはずのない勝負。とはいうものの、いくらオラクルの助けがあったとはいえ選択するのはネオ自身。なにより、自由意志によって選択するという行為自体がプログラム処理の対極にあるものだし、だからこそスミスには耐えられないものなのでしょう。

こうして、まんまとスミスを誘い込んだネオはスミスもろとも消滅します。人間であるネオにとってプログラム(=意識)の消滅とは(ほぼ)死を意味しますが、プログラムであるスミスはただただ消え去るのみ。一つのスミスの変化は自動的に全てのクローンに反映しますから連鎖的にすべてが消滅していきます。しかし、スミスが乗っ取ったプログラムは本来スミスのものではありませんし、ネオの存在とも矛盾しませんから、消滅せずに残ります(ウイルスを除去すればシステムは(ほぼ)正常に戻るのだ)。こうしてスミスの消えた後には、オラクル(戦いのあと、スミスの服を着て雨の中倒れていた)をはじめとしてMatrixのプログラムたちが再び復活するのです。

そしてマシン側は約束通りZionへの攻撃を取り止めてセンチネルの大群は撤退していきます。

だけどねぇ…

そうはいってもMatrix自体はそのまま(というか、本来の設計どおりに戻る)。あくまでも、マシン側からのZion攻撃が停止しただけの「戦争でない状態という形の平和」でしかなく、それはオラクルの循環論法のように「続く限り続く」ものでしかなさそうだね。

ほんとにここで終わるんだろうか、この話…。


その後の展開に関係のありそうなネタ(笑)

というわけで、かなーりいい加減なエンディングで(苦笑)解決の付いていないことが多すぎる。意味の無いガジェットをちりばめたのか意図的にネタを残しているのかはともかく、「その後」に関わりそうなネタをすこしピックアップしてみよう。

全体的な状況に関して

なんといっても、あっさりZionが滅ぼされずにそのまま残ってしまったけれど、それで大丈夫なの?アーキテクトの台詞によると、予定通りに行かないとMatrixは崩壊、人類は絶滅のはずなんだけど。まあ、ネオの持ってきた救世主コードは回収できただろうからバージョンアップも問題ないだろうし、スミスのおかげでMatrixの再起動もできたから(せざるを得なかったんだろうけど)その点ではある程度の安定は取り戻したのでしょう。でも、Zionがそのままと言うことはそのMatrixへの影響力もそのまだしま(むしろマシン側が攻撃を手控えることでもっと強くなるだろう)、それは次の救世主の出現を早める結果にならないか?だいたい、バージョンアップとリロードだけで済むんだったら、そもそもZionを滅ぼす必要ってなかったんじゃないの?

いずれにせよ状況としては、マシンが地表を支配し、人間はその保護下でZionにいるか発電所にいるかのどちらか。ただ、地表は暗雲たれ込めてはいるものの、大気そのものはまだ人間の生息が可能な状態のよう(船のクルーも生命維持装置なしに船外に出てるからね)。ということは、最初の人間・マシン戦争での核兵器使用はそれほど多くないはず。とくに核兵器の高高度爆発による電磁波衝撃(EMPと同じ原理ね)は機械に対してはとても有効な戦術であったはずだから、おそらく核兵器制御システムを先にマシンにおさえられて使用できなかった可能性が高い。となると、ある程度の核兵器がどこかに温存されていてもおかしくない。なにより、ほかの人間コロニーが残っている可能性もあるだろう。

それは別としても、ほとんど日のささない気候も若干気になる。いくら人間側がマシンのエネルギー源を遮断する目的で意図的に行ったとはいえ、戦争によって多少の気候変動はあっても、それが数世紀に渡って持続するとは思えない。戦争以前の大気汚染/温暖化の影響だとしても、エネルギー源を「人間発電機」に頼っているわけだから、すこしは改善されてもいいはず。となると、可能性としては、自然の変動(氷河期とかね。ザイン号が地表に出る時にナイオビは気温が低いことを報告しているし)による気候の可能性がある。あるいはまた、別の可能性として、マシン側が意図的に厚い雲で太陽を遮っているかもしれない。基本的に太陽光線(紫外線)とか、太陽嵐(ついこないだ人工衛星ぶっ壊したやつ)は機械にはよくないのだ。そういう有害な宇宙線を抑えるために大気構造を操作して厚い雲(それも電荷を帯びた=雷だらけのヤツ)で地球を囲んでしまうのはいい方法かもしれない(機械にとっては、ね)。それは、ネオとトリニティののったザイン号が上昇して行っても地上からの追っ手はなく、機体に付いたセンチネルも雷で次々にやられて落ちて行き、雲の上に出た時にはきれいさっぱりしている状況からも、雲から上ではマシンも弱いという事を示唆している。もちろん、トリニティの見た雲上の光景は(人間の目には)美しいということがその逆を象徴するのはいうまでもない(Matrixの中でも、晴れた日の出の空がサティーからネオヘのはなむけなのだよ)。(さらに蛇足:盲目のネオにはマシンシティが「美しい」と感じられるのも対照的だ)いずれにせよ単純な要因ではなくいくつかの要素が絡み合っているだろうけど、地球環境の問題はマシン/人間の両方の将来に重大な影響を及ぼすことは間違いないだろう。

マシン世界に関して

それに、ラストに出てきたデウス・エクス・マキナの存在は、マシン世界の存在に対する疑問を投げかける。Matrixは人間発電機のエレメントである人間を生かし、制御するために設計されたバーチャルルアリティ。つまり、それ自体は目的ではない。では、発電機で生産された電力は何に使われているのか?マシン世界は何を目指しているのか?マシンに生存本能はあるのだろうか?そこに置ける人間の位置づけはなんなのだろうか?発電力だけで考えればもっと効率的な生物だってありそうだし(電気ナマズなんてまんまじゃん)、そこに人間を使っている必然性はなんなのだろうか?もしかしたらなにかほかに隠れた意図(たとえば人類の保存とか)があるのだろうか?

さらにいえば、Matrixに接続された人間は、人間同士の自由な生殖活動ではなく、人工授精あるいはクローニングのような方法で試験管ベビーのように生産されている。それはもちろん効率を考えたものであるだろうけれど、その手法にはまた別の可能性がある ―遺伝子工学だ。自然淘汰や突然変異の可能性に頼るだけでなく、もっと積極的に発電効率を高めるような人体を開発しようする努力はあってしかるべきだろう。もしかして、ネオはそうした実験の結果なのだろうか?歴代の「ネオ」の存在がMatrixのリロードだけでなく人体のリロードをも制御していることを示唆している。そして、そうした発電効率すなわち人体に発生する電流の増強の結果、よりマシン的な電流との親和性の高い人体が生まれたと考えれば、その人体が電子の流れや電磁波に敏感で、ついには制御可能なまでの能力に発展するとしてもおかしくはない。もしかしたら、ネオは人類の救世主ではなくマシン世界の救世主として設計されていたのだろうか?

ネオと言えば、ラストシーンではおそらく死んでいたけれど、その扱いはかなり意味深。マシン側がケーブルを外したあとの待遇はなんか貴重品を扱うみたいだった。ということは、そのままあっさり廃棄してしまうとは思えない。もしかしたら肉体をそのまま冷凍保存したりDNAで保存したり、とにかく何らかの形で残されるのではないかな?また、ネオとスミスの最後はログ(Matrix内の行動は当然すべて記録されているはず)のみならず、フルダンプ(システム状況の完全バックアップコピー)が残されている可能性がある。マシンがただボーッと見ているわけないからね。もちろん、スミスの解析も必要だろうけど、ネオ自体の解析も当然行うだろう。ならば人格そのものまでシミュレーションできるかもしれない。今度はプログラムとして復活か?もしやクローン再生(プログラムが人体に移れるのはスミスで実証済みね)か?それともあっさり復活か?
とにかく、「またネオに会える?」というサティーの問いにオラクルが答えたのはこうだ ―「いつかね」

マシン世界の人類に対する関心の高さと影響の強さは他にもうかがえる。オラクルやパーセフォニーなど人間の感情に興味を覚えるものは多いし、スミスの反応自体もきわめて人間的なのは何故だろう?もちろん、その起源は人間の作ったものである以上、それなりの影響はあるだろうけれど、それ以上に、Matrixを通じたリアルタイムな人間性の影響力が感じられるのだ。メロビンジアン が人間の女性に媚薬プログラムを送り込んで悪さをする好色性、それを知ってネオにちょっかい出すパーセフォニーの嫉妬、スミスの自信と恐怖、あるいはオラクルやインド人プログラムの子供に対する愛情(この子供ももちろんバージョンアッププログラムだ。)こうしたことはMatrixに関わるプログラムに顕著であるとはいえ、人間の活動が活発になってくればじわじわとマシン世界全体に広がって行ってもおかしくない。その行き着くところはいったい何処?

子供と言えば、オラクルは最初から子供の世話をしていたよね。オラクルが人間の子供に「超能力」を教え込むことまで手を出すとは考えにくい以上、あれは「プログラムの子供」と考えるしかない。プログラムの子供?つまり、プログラムも成長し、そして世代交代して行くのか?そんな世代の差に基づく断絶、抗争などは問題にならないのか?スムーズにバージョンアップするとは思えないのは今も昔もマシンも一緒。そこにオラクルのような人間寄りなロジックが関与するということは、マシン世界に新たな勢力を生むことに繋がりかねない。そうした状況は人類との関係をどのように変えて行くのだろうか?

一方、何らかの原因でスミス的なものが再び発生してくる危険性もある。そうなっても、一旦「ネオ」の存在が記憶されている以上、人間がだまってやられているはずがない。あるいは、スミスが実現したプログラムによる人間乗っ取りの可能性は、パーセフォニーがネオとトリニティのロマンスに憧れたような、プログラム側の肉体に対する欲望を呼び覚ますかもしれない。そうなると、今度は人間が発電機とはまた違った形で利用される事にもなりかねない。

人間世界に関して

Zionはとりあえずマシンの攻撃を免れたとは言え、いろいろ問題を抱えている。

その一方で、Matrixがそのままと言うことは、また次のネオがすぐに現れてもおかしくない。ま、いずれにせよそうした「目覚めた」やつはZionに解放することになるのだろうけれど、そうするとやはりZion側からMatrixに対する敵対心が強まってくる可能性が高いですね。そもそもマシンと人間の戦いは人間の側から仕掛けているので(アニマト参照)、機械側が手を出さないからといって人間が大人しくしているわけが無い。

そもそも、Zionに残った人たちには、今回の戦争で一体何が起こったのかはまったく分かっていない。マシンが引き上げたことは解っても「ネオがやった」というのすらも何の根拠も無い噂話レベルだし、マシン側がわざわざ細かいことを教えてくれる訳がない(マシン側にとってはむちゃくちゃ危険な情報だからね)。ネオの生死のほどまで謎のままだろう。となると、好き勝手な解釈をでっち上げるのは人間の得意技。「ネオは救世主だ」から「EMPを隠し持ってメインコンピュータに突っ込んだ」はては「ただの偶然さ」「人類の裏切り者」まで何でもござれ。まして、一時的にマシンの脅威が収まってしまえば、これはもう各派入り乱れて大混戦、宗教戦争よこんにちはってなもんでしょう。となると最大の焦点は、ここぞとばかりに反撃に出ようとする連中と、平和を追求する連中の対立。これはマシンという対立軸が存在する以上避けられない。

それに現実的な目で見れば、さらに火に油を注ぐ要素がある。つまり、Zionがマシン側の干渉を免れて滅亡が避けられるとなると、とうぜん人口は減らずそのまま(過去の繰り返しでは生き残るのは少数だった)。それどころか戦後のベビーブーム(これは避けられないね、ジーといいナイオビといい(笑))で人口が爆発するのは確実そのもの、時間の問題。そうなると古典的な領土問題まで絡んで来るだろう。もっとスペースを!外へ、地表へ!むろん、マシン側の圧倒的な兵力がある程度の抑止力になるとはいえ、おそかれはやかれ再び発火するのは目に見えてるね。

もう一つヤバそうなのが、Matrix出身者とZion出身者の対立。最後にアーキテクトが保証したように、Matrixから出て来る連中は増えて来るだろう。一方Zion出身者は基本的にはMatrixに入る事はできない(プラグが無いからね)。キッドに対するミフネ船長の差別発言(「Matrix生まれの軟弱もの!」)からもうかがえるように、必ずしも一枚岩ではないのだよ、人間は。(蛇足。なんでミフネ「船長」なの?まさかCaptain(キャプテン)の誤訳か(辞書によるとCaptainには、軍隊では陸軍大尉または海軍少佐、警察の警部/分署長、消防署の分隊長などの意味がある。捨て身の攻撃=サムライ=ミフネという短絡的なネーミングはともかく。雨の戦いはクロサワの得意技だし)

さらに言えば、アーキテクトが保証したように、Matrixを出ることを望む者は許されるとはいえ、マシン世界を脅かすほど大量の人間が解放される(Matrixの安楽な世界を捨てる)ことを望むとは思えませんな。Matrixはそのままなのですよ、ひたすら日常をむさぼる何億という人間発電機たちは。彼等は何の役割もなく、なんの影響力もないのだろうか?彼等は人間ではないのか?逆にもし、Zionが彼等をすべて解放した時には一体何が起こるのだろうか?機械の保護なしで膨大な数の虚弱者をどうするつもり?それを考えずにMatrixの住人に革命を説くことは意味がないどころか、かえって反発されてしまうのではないだろうか?

別の大問題。スミスの暴走によって、プログラムが人間世界に潜入する方法がマシン世界に渡ってしまった。スミスを破壊したとは言え、その能力は解析できるはずだから、もう時間の問題。となると、エージェントがZionに潜入するということになる。これはまたこれで恐い。また、逆にプログラムがZionに亡命するという可能性もあるね。マシン世界の世代交代とか、立場の違いとか、あるいは人間であることへの興味とかの動機で人間になることを望むプログラムたち。ある意味で究極のエグザイルのかたちといえるかもしれない。いずれにせよ、MatrixとZionの関係はこれまで以上に緊密かつややこしくなることは間違いない。今までは一方通行だったジャックインがいわば双方向にコンバート可能になったのだから。これはマシン側と人間側の両方に多大な影響を及ぼすだろう。

となると…

こうした問題が複雑に絡み合った世界に何が起こるのだろうか?(ま、これだけの舞台設定があれば何でもできるでしょうけどね。続編書こうかな(笑))とにかく、ほんとこの段階では一時的な「停戦」というのもおこがましいくらいの不安定な状態だと思うんだけどね。


特別付録
Matrix Restart (An Original Story of the days of the Matrixes)

ということで、このような疑問に決着をつけるため、勝手に続編のあらすじを作ってしまいました。設定やキャラはここで解説しているものをそのまま使っていますが、ストーリーそのものは完全なオリジナルです。あくまであり得る可能性の一つの姿。選択するのは、あなた自身。(2003.11.16)

このシナリオに基づいたサイド・ストーリーもあります。


補遺:リローデッドより、ネオとアーキテクトの会話(対訳)
別ページに独立させました。著作権表記を復活させただけで、内容は変わりません。(2003.12.27)


補遺:レボリューション台本 全文対訳(訳:TOMO)


補遺:台本(英語)全文へのリンク

台詞はほぼ完璧のようですが、ト書きや説明は若干?です。オリジナル脚本ではなく、どうやらファンが根性で書き(聞き)取ったもののようですから。

Matrix
Reloaded
Revolutions

Thanks: http://www.zionmainframe.net/


補遺:理屈っぽい人のための参考文献

J・P・ホーガン

「未来の二つの顔」1979初版
→機械知性の発生とその成長

「仮想空間計画」1995
→ヴァーチャル・リアリティの開発失敗談

「巨人たちの星」1981
→バーチャル・リアリティによる異星人とのコンタクト

「内なる宇宙」1991
→機械知性にコントロールされたバーチャル・リアリティ

(最後の二冊は、「星を継ぐもの」1977「ガニメデの優しい巨人」1978初版の続編。以上すべて創元SF文庫)

ロバート・A・ハインライン

「かれら」1959(編纂)ハインライン傑作集2『輪廻の蛇』(ハヤカワ文庫)収録短編
→現実を現実ではないと確信した男

「愛に時間を」1973
→多元宇宙もの、機械知性のクローン移植を含む

アイザック・アシモフ

「われはロボット」1950 以降のロボットシリーズ(早川文庫)
→知性を持つロボットと人間との関係。

ロボット工学の三原則(引用:「われはロボット」小尾芙佐訳より)

第一条
ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条
ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条
ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。

(出典:ロボット工学ハンドブック。第56版、西暦2058年)

この三原則を絶対的にロボットに適用し、なお、人類とロボットの闘争(殺人)を可能にする拡大解釈の追求。

「ファウンデーション」1951 以降のファウンデーションシリーズ(早川文庫)
→人類の行動は統計的に推定しうるという前提の人間の進化。

上記2シリーズは最終的に一つのストーリーとして合流する。

フレデリック・ポール

「ゲイトウェイ」シリーズ 1977〜1987(1〜4、ハヤカワ文庫)
→プログラム知性、生物知性の機械移植を含む(シリーズ前半は人間、後半はプログラムになる男が主人公)
 

年号はすべて、原書の発行年です。私でさえまだ生まれてないのもある!


あとがき:「Matrix最終解説」の基本方針についてのご注意とお願い
別ページに移動させました。(2004.1.4)


TOMOの Matrix解説/Matrix Restart ご意見ボード を設置しました(2003.12.18)。こちらでもご意見を承ります。まあ、雑談ということでお気軽にどうぞ。


Thanks: THE MATRIX WORLD & the BBS


TOMO

ご意見、質問、その他は matrix_comprehensive@mac.com まで

2003.11.6初出 2004.1.27更新