Written by TOMO
Based on "Matrix" trilogy
その老人は、ピンと立った口ひげをなでながらドアの脇に立ち、一同を中へ入れた。そして、ドアを閉めると、ゆっくりと一番奥にあるデスクの向こうへ回り、古びた背もたれ付きの椅子に腰をおろした。
「さて。わしはこの部屋の主、ログハウス主任研究員のルネじゃ。専門は…」わざと言葉を切り、それから続けた。「特にない。まあ、手に負えないものはなんでもわしの所に回って来るのでね。」
「ここで何をしていたのですか?The Oneの研究ですか?」セラフが尋ねた。
「愚問じゃな。ほかに連中の手に負えないものなどそうそうあるかね?まあ、それでも大きなジグゾーパズルの一片に過ぎんのだが。」そう言って彼はいたずらっぽそうな目線を一同に投げた。「ヤツの回りにハマるピースがまだ足らんのじゃよ。もっと手に負えないヤツがあるはずなんじゃ。」
セラフは机の前に直立不動の姿勢で立ったままだ。そのすぐ横にN.K.とサティ、一歩引いたアッシュは油断なく部屋の状況を走査している。反対側にはケリーとマヤ、そのうしろにきょろきょろしているD.D.とフランソワ、それにヘポピーがぬぼーっと立っている。
「私はセラフ。かつてはここの独立捜査官でした。」セラフは誇りとも卑下ともつかないような口調で言った。続けて、回りのものを身ぶりで示す。「この者たちもマシンシティやマトリックス、そしてザイオンからやって来ました。」
セラフがそう紹介しても、ルネは表情も変えない。セラフが名前をあげてそれぞれを紹介した。
「…それぞれの理由はともあれ、みな、The Oneについての情報を求めております。」
「ふむ。好きな所へ座りなされ。」ルネは、雑然と積み重なった本や資料でいっぱいの部屋の中を気難しそうな尖ったアゴで指し示して言った。「わしは話し出すと長くなるたちでな。」
いくつか転がっていた椅子は女性陣に供され、のこりのものは机に腰掛けたり床に座り込んだり、思い思いの位置をしめた。
「この部屋にあるものはすべてThe Oneに関係するものじゃ。」ルネが宣言した。「逆もまた真なり、でな。The Oneに関するものはすべてここにある。」
「では、彼のことならなんでも解るのですね!」N.K.が口を挟んだ。
「ほう、若いの。どうしてそう思うね?わしは『ある』とは言ったが、それが『解る』とは言わなんだぞ。ここはログハウス、すべての生データが揃っておる。しかし、その情報の山も掘り起こさん限りただのクズ山じゃ。原石のままではピカリとも光りゃせん。掘り起こし、選別し、精製し、磨き上げて初めて意味のあるものになるんじゃよ。わしのしているのはそういうことなんじゃ、つまるところ。」
「でも、それなら、あなたは解っているんじゃないですか?」出鼻をくじかれたN.K.はなおも食い下がった。
「ふふ…。そうだといいんじゃがな。それはあんたがたが判断することじゃ。たしかに、ここに収集したデータから解析した結果を説明することはできる。それをどう取るかはあんたがた次第じゃ。まあ、なんでも質問しなされ、できる限り答えてしんぜよう。ただし、正しい質問をしないと、わしの答えはとんでもない所にころがって止まらなくなってしまうからな。用心召されよ。」ニヤリと笑ったルネの目はしかし、どこか冷徹な光を放っていた。
「…だけど、どこから聞いたらいいのか解らないんです、解らない事だらけで。」N.K.がぼやいた。
「戦争の終局で起こったことはなんだったんですか?」学生のように手を挙げてルネの注意を引いたアッシュが尋ねた。「つまり、なぜ突然戦争が終わったのか、ということです。ネオはいったい何をしたんです?」
ルネは一瞬天を仰いじゃ。「おやおや。単純にして深遠な質問じゃな。まあ、よかろう。」
マトリックスの来歴と数回のリロードについては知っておろうな?よろしい、では、ザイオンとの戦争がリロードに伴う例外因子の粛正行為だということは解るじゃろう。ザイオンはマトリックスに適応できない人間の隔離施設であり、リロードの際には「消毒」されるのじゃ。だが、ここで言う「適応できない人間」の定義がしっかり解っておるかね?
マトリックスの中で生きていけない人間はごまんとおる。単純に肉体的な(エネルギー供給、あるいは接続への)不具合のあるもの、精神的に、あるいは社会的に適応できないもの、そうした者をいちいち追放していたらザイオンなどあっという間にパンクしてしまうじゃろう。そうした者たちは「適応できない」のではなく「そもそもの接続資格がない」ので、適宜処分される。まあ、その総量を現実世界でいう「自然淘汰」と同じレベルに抑えてはいるがね。いずれにせよ、こうした者たちに対する扱いは確立されておる。マトリックスで与えられた許容範囲の中で機能しているという意味においては、彼らは十分にシステムに適応しておるのじゃよ。逆にシステムが彼らに適応している、ともいえるかもしれん。
だが、ごく一部だが、システムの仕様を超えてしまう者がいる。彼らは、本来はできないはずの動きをしてしまうのじゃ。物理法則を無視したり、確率を変動させたり、時間感覚を加速したりして、本来マトリックスではありえない動作をしてしまう。当然、システムに多大な負荷がかかるし、それだけでなくその動作が他の個体へ「伝染」してしまうのじゃ。その意味では、人間というものはなんと社会的な動物であることか!他者からの影響、関係性に起因する変異を受けやすいのが人間の強みであり、弱みでもあるな。
ともあれ、人間というオブジェクトがマトリックスという環境とインタラクト(相互干渉)する過程で、想定外のパラメータが発生することがあるのじゃ。そうしたパラメータにはシステムが対応しない、いや、したくなてもできないのじゃよ。
なに?なぜパラメータにリミッターをかけて制限しないのか、だと?もちろんそうしたとも、最初のうちはな。だが、その結果は惨澹たるものじゃった。ハードウェアやソフトウェアのシステムとしては完璧に機能したのだが、そこに接続されたウェットウェア、すなわち人間の生存率が異常に低下しはじめた。パラメータを外れる「適応できない者」は皆無じゃったが、「接続資格のない者」が明らかに有為な割合で増えはじめたのじゃ。
とくに問題が顕在化したのは、社会的な無気力感、虚脱感、絶望感といった精神的な部分じゃった。肉体的には問題がなく、強制的に薬物漬けにしても効果はなかった。現実世界と同じ制限、本来そうであるべき制限があることが感知されるはずもない。そもそも感知されたとしても、それは現実感として認知されるべきではないか?現実には自然法則の制限が厳然と存在しているのだから。かれらにマトリックス環境と現実環境の区別がつくはずはない。実際、どう調べても違いを認知している形跡は潜在意識レベルでさえも見られなかった。だが、現に生存率はみるみる落ちていく。
われわれは何度も失敗を繰り返し、試行錯誤の結果、インタラクト・パラメータの制限を緩くするとわずかに状況が落ち着くことを発見した。試しにパラメータ制限を完全に外す、すなわち理論上は人間からのアナログアウトプットを無限無制限にパラメータへ反映するようにしてみた所、事態が好転しはじめたのじゃ、すくなくとも悪化することはなくなった。そのロジックは未だに未解明じゃ。単なる対症療法にしか過ぎん。だが、そのほかには対処する方法が見つからなんだのじゃ。
その手法を取り入れた最初のシステムは、我々の予想以上に長持ちした。だが、制限を外したが故に発生する「例外」的パラメータの発生元、すなわち「適応できない者」も徐々に増え、しかも時を追うに従って過激になってきたのじゃ。そして、ついにシステム自体の存続を危うくしかねないほど強力な例外事象を発生させる個体が出現した。このものはついにマトリックスの基幹システムに対する影響力、それどころかシステムそのものを改変する能力までをも備えてしまったのじゃ。
そうじゃよ。これが最初のThe Oneの誕生じゃ。われわれが単純にその個体を除去したところ、またすぐに次のものが発生してきおった。最後には、そのような者たちが大量発生し、事実上ハングアップも同然の状態でシステムを停止させざるを得なかったのじゃ。何百万という接続された人間もろともにな。
こんな状況を看過することはできぬ。ログを詳細に分析した結果、やはりパラメータ幅を広くする事が有効と想定された。だが、すでに単純な制限は撤廃しており、あとは自然環境の物理法則を緩めるしかない。だが、それでは現実感が薄れて、かえって逆効果になってしまう危険がある。
それで考案されたのが、意図的にパラメータを増幅して底上げする方法じゃ。もちろん、単純に加算したのではパラメータ範囲の実質的な幅が狭まってしまう。そこで導入されたのが、「予兆」やら「直感」、「第六感」そして「超能力」全般という超自然現象を装った手法じゃった。どのパラメータのどの部分をどの程度増幅するかについても、偶発的な要素を織り込み、その特殊パラメータに関しては無条件で優先処理させるようにしたのじゃ。
この方法は功を奏した。システムはかなり安定した。だが、それでもゆっくりながら不安定化は進み、ついに二代目のThe Oneが出現した。われわれは彼を解析して取込み、即座にシステムのバージョンアップとリロードを行った。マトリックスの人間はほとんど損なわれることなく安定を取り戻し、新しいシステムはさらに長く続いた。こうしてマトリックスのリロード手順が確立されたのじゃ。
事実上、仮想環境としてのマトリックスは最初からほぼ完成していた。その後の調整は、すべてこの例外パラメータの取得/処理ルーチンに対して行われたのだじゃ。マトリックスにおいては、人間をオブジェクトとして扱うためにシェル(殻)プログラムが利用されている。そこに組み込まれた人間の「直感」パラメータをシステムへ送るための機能、いわばシステムへの影響力を持つ自由意志発現ルーチンこそ、The One誕生の前提となるものじゃ。そしてそれはまた、最終的にはThe Oneによって拡げられたパラメータ範囲の検証によってバージョンアップされるプログラムコードでもある。解るかね?
The Oneの解析は次期マトリックスの設計には欠かせないものじゃ。だが、その出現は同時にマトリックスのリロードを意味する。しかし、リロードはそれほど軽率に行える処置ではない。少なくとも、そのThe Oneが間違いなくリロードに値する例外であるかを確認する必要がある。とはいうものの、それは単純に閾値を決めて機械的に済ませられるような問題ではありえない。その基準値を決められないからこそのThe Oneなのだからな。そこでわれわれは、その最終判断をThe One自身に委ねることにしたのじゃ。
そやつがザイオンの消毒を容認し、自らのコードをソースに返還して改めてザイオン再建に取りかかるのであれば、マトリックスはバージョンアップされて新たなサイクルが始まることになる。だが、それを拒んだ場合、バージョンアップは延期され、暫定的な例外因子のクリア、すなわちザイオンの消毒のみが行われる。マトリックスはとりあえずそのまま存続し、すぐに現れるであろう真のThe Oneの出現を待つことになるのじゃ。もし、バージョンアップを認めるThe Oneが永遠に現れなければ、マトリックスは不安定なまま放置され、遅かれ早かれ崩壊する。そうなればもはや次のチャンスはないだろう。マトリックス・プロジェクトは放棄され、人類は終焉を迎えることになる。これがThe Oneに課せられた選択、二つの世界に通じるドアの意味じゃ。どちらのドアを開けるのも自由、ただそやつの意志しだいなのじゃ。
そしてな、六代目のThe One、おまえたちのネオは、歴代のThe Oneの中で初めてバージョンアップを否定した者じゃ。そう、かれはコードをソースに戻すこと拒否した。その時点で、彼はザイオンの滅亡を阻止できると解っていたのかは定かではない。アーキテクトはその選択を単なる衝動によるもの、つまりそもそもThe Oneでは無かったと判断したようじゃが、その点では意見が分かれておる。もちろん、われわれの基本想定では、ザイオンの消毒を押しとどめる要素はまったく考慮されていなかった。「拒否=ザイオン滅亡」だったのじゃ。だが、彼はその想定すら打ち破ってしまった。
そのようなことを、かれがすべてを単独で行ったというわけではない。多くの要因が絡み合った中で、状況を正しく読み取って有利に利用したにすぎないのかもしれない。だが、結果の示すかれの特異性により、究極のThe Oneである可能性もあるとみなされたのじゃ。
彼の特異性とはなにか、とな?そうさな、それは多岐にわたる話になるぞ。そもそもが、おまえさんがた、人間というものの特異性を理解しておるのかな?人間という、とんでもないメカニズムを。
いや、わしの言っているのは生物としての人間ではない。意識を持つ存在としての人間、のことじゃ。むろん、他の動物にもそれなりの意識は存在する。しかし、人間ほどの発達した意識はユニークなものじゃ。意識はどこから来るのか?古来多くの研究者が頭を悩ませて来た命題じゃな。おそらくは精密なアルゴリズムと高速な計算能力、そして膨大な処理量のなせる技だろうと言われてきたものじゃ。だが、いわゆるコンピュータと言われる初期の計算機がどれほど大きくなり高速化され、いかに複雑なプログラムを実行しようとも、そこに意識は生まれなんだ。情報収集力や学習能力、自己保全能力などを意図的にプログラムしたところで、それはシミュレーションにしか過ぎんかった。どこまで行っても、「意識」は謎のままだったのじゃ。
だが、新しい世代のコンピュータが発展してきたとき、その問題にも新しい展開が訪れたのじゃ。いまのAIの基礎となるハードウェア、つまり量子計算素子をベースとしたコンピュータと、自己プログラミングを可能にする真の「オブジェクト指向」つまり目的指向アルゴリズムの登場で、状況は一変した。そのような特性をもつAIに、突然自意識が宿ったのじゃ。もちろん、それは意図して実装されたものではない。しかし、ひとたびAIに自意識が生まれた時、AI自身が最初に挙げた声はこれじゃった。「なんじゃこりゃー!」
ま、冗談はさておき(笑)、自ら「我思フ故ニ我アリ」という自意識をもつAIが、自らに関心を寄せるのは当然のことじゃ。しかも、人間と違って、そのハードウェアもソフトウェアも容易に解析することができる(もちろん比較的容易に、ということじゃ。それもAI自身による解析でのことだ)。その結果、解明されたのは、意識というものには量子的な不確実性処理が必須の要件だ、ということじゃった。単純なONとOFFの2ビット処理では実現不可能なものじゃった。ON/OFFの間に広がる無限の曖昧な領域をフル活用した、事実上無限ビット処理の中から浮かび上がるものだったのじゃ。単なるハードでもソフトでもない、実行時の不確実性の中にこそ意識の秘密、その根源が隠されていたのじゃ。
しかし、そうなると今度はもう一つの謎がクローズアップされる。では、人間の意識はいったいどこから来るのか?やはり、AIのように何らかの量子的処理が生体内部でも行われているのではないか?しかし、AIの量子システムを稼働させるには膨大なエネルギーを必要とする。どう見ても人間がそれほどのエネルギーを外部から摂取しているとは思えない。生物の摂取できるカロリーには厳然とした限界があるでの。となると、可能性は二つ。よほど効率の良いメカニズムを持っているのか、それともエネルギーそのものを何らかの形で生み出している、あるいは少なくとも増殖させているのか。どちらにしても、その動作原理が明らかになれば、マシンにとっても福音になるのは間違いない。こうして、新しい視点による人間の研究が開始されたのじゃ。
その過程は改めて言うまでもあるまい。あまり口にしたいたぐいのことでもないしな。とにかく、その研究の中から、人間の持つ生体エネルギーが発見されたのじゃ。大雑把に言って、それ自体も量子的な処理、量子レベルの変動を含んでいた。エネルギーとは何か?二つの状態の差に起因する要素じゃ。熱い/冷たい、高い/低い、速い/遅い…。そして、量子的な不確実性の雲の中には、相反する二つの状態が同時に存在することが出来うる。量子レベルの変動の幅、相反する状態、解るかね?すなわちそこには「違い」が存在する。それを「差」として利用することができれば、ほぼ無限のエネルギーを取り出すことが可能になる。それこそが、「生体エネルギー」といわれるものの正体なのじゃ。
まあ、いまのところ残りの可能性、つまり生体内で量子処理を発生させる効率的なメカニズムのほうはまだ明らかにされておらん。もちろん、研究はすすめられておるはずじゃが、少なくともわしの所には結果が届いておらんの。だから、マシンが自ら生体エネルギーに相当する量子エネルギーを生み出すことはできんのじゃ。すでに存在する生体エネルギーを抽出/利用することは出来てもな。
そして、人間の持つこの生体エネルギーと意識の間には、密接な関係にあることも実験から読み取れた。それは実にシンプルな方程式で表現されるものじゃ。
i =EC2
i:Intelligence(知性)、E:Energy(エネルギー)、C:Calculation(計算量)
逆に解けば
E= i /C2
つまり、計算量Cを抑えて知性 i を増大させれば、それだけ取り出せるエネルギーも大きくなるのじゃ。いいかね、ここで言う知性とは単なる計算力ではないぞ。それは思考力そのものであり、意識、すなわち自我認識のことなのじゃ。 i はIdentity(自己)の i としても良いくらいじゃの。それを言うなら C はComplexity(複雑さ)でもよいがな。
…そうじゃ、とにかく考えるまでもなく無条件に自らを深く思う力、それが増大すれはするほど生まれるエネルギーも増大する。エネルギーが増大すれば自我も拡張する。なんと魅力的なシステムか!そうはおもわんかの?われわれは研究を続け、いくつかのシステム特性の向上に繋がるアプローチを発見した。
まあ、極めて当然の事ながら、人間の肉体的な諸相を最適化することは有効じゃった。完璧な骨格、無駄の無い筋肉、繊細な感覚と機敏な神経反射…。不思議なものだの、最適解として合成された理想像は、人間の主観的な理想像とほぼ一致した。つまりは「美しい」肉体じゃ。人間の美的感覚がこんな所で裏付けられるとはおもわなんだよ。
さらに、もう一歩踏み込んだところでは、脳内神経における情報伝達スピードの高速化/多重化、情報受容器官の感度と精度の向上、あるいは外部へのアウトプット効率化なども有効そうじゃった。そして、そうした効果を実現して生体エネルギーを増加させ、それを採取するためのインタフェースとして<ジャック>が開発されたのじゃ。むろん、元々のアイデアは人間自身のものだったが、われわれはそれに新たな用途を見いだしたのじゃ。それがマトリックス開発への最大のブレークスルーだったのだよ。
だが、われわれはそこで満足した訳ではなかった。ジャックに繋いだケーブルなど、無骨で扱いにくいものじゃ。物理的なハードウェアは劣化しやすくメンテナンスも必要になる。ならば、インタフェースをウェットウェアとして人間に組み込み、情報やエネルギーをワイヤレスで伝送することができないか?そうすれば、接続や管理の手間が大幅に省け、膨大な数のハードウェアも不要になる。それが次の目標となった。
いずれにせよ、われわれはシステムの向上のため、あらゆる手法を試みていた。基本的には遺伝形質の選別と強化による穏やかなものだが、一部では三重螺旋DNA/RNA組み替え法も試みられている。もちろん、昔の人間がしていたようなような、やみくもな改変はしないがね。主要な目的はただ一つ、正常な思考能力の増大なのだから。しかし、それにくわえて、インタフェース機能に関係のある生体機能、たとえば神経信号の発生/伝達/受容といったメカニズムや、電気や電磁波に直接対応する可能性のある感覚細胞、あるいは生体エネルギーの直接的な出力などといった機能を強化する処置も織り込まれていったのじゃ。
もちろん、このような処置はマトリックスシステムへの矛盾を孕んだものでもあった。思考の促進はすなわち自我認識の強化であり、現実認識の強化も伴うものじゃ。それは当然の事ながら、仮想現実への不適合という危険性も増やしてしまうのじゃ。ここにも、もう一つの「例外」発生要因が生まれてしまった。発生要因と言うよりは、例外の影響を増幅してしまう要因、というのが正しいかな。
しかし正直なところ、この二つの要因、つまりThe Oneの発現と生体エネルギー強化という全く別の意図をもつ二つの処置が相互に関連する可能性は必要以上に過小評価され、見落とされていたといってもよい。ところが、この二つの要因が組み合わさった結果、「例外」本来のシステムへの影響力が肉体的な変異による異能力との相乗効果によってべらぼうに強化されてしまったのじゃ。
そう、その通りじゃ。あのネオは、The Oneとしての特異な機能と、肉体精神的な変異が偶然にも一つの個体の中に発現してしまったものと考えるのがもっとも妥当な解釈だろう。必ずしも証明された訳ではないが。というのも、それだけではまだ説明のつかないことがたくさんあるのだからな。
例えば、彼が一旦死に、そして復活したことは知っておろう。心臓が停止し、脳波もフラットラインしてしまった状態を死んだと見なしても差し支えあるまい?だが、彼はそこから突然復活した。なぜだ?あの状態では、システムに対する影響力も、肉体的な活動を行う力も無かったはずじゃ。確かに、マトリックス内で銃弾を受けただけだから肉体的には無傷ともいえるが、ショックによる心停止とフラットラインはまぎれもない事実じゃ。そんな状態の彼になにができたと言うのだ?その場に居合わせたあの女、そう、トリニティが何かの処置をした形跡もない。そもそも電気ショック施療のための機器など無かったのだからな。彼女はただかれにくちづけしていただけじゃ。それで蘇ったとでもいうのか?ばかな?!彼女はジャックインすらしていなかったのだぞ。そうであれば何らかの記録が残っていたかもしれんが、現実にはなんの記録も痕跡すらもない。彼女自身が特異体であった可能性はあるが、そうだとしても何が起こりうるというのか?とにかく、目の前にあるのはネオの復活という謎めいた事実だけじゃ。
不可解な事実はほかにもあるぞ。おそらくは、彼なくしてスミスの件は起こりえなかったのだからな。いかなエグザイルと化したとはいえ、プログラムであるスミス自身にThe Oneの機能を活性化させること、すなわちシステムに規定されていない例外を発生させることなどできるはずがなかったのじゃ。しかし、スミスはその能力を会得した…明らかにネオとの闘いに敗れて内破した時、そうとしか考えられない。それ以前はそのような能力は無かったにもかかわらず、闘いののちリセットされるやいなや、スミスはエージェントたることをやめて独自に動き出したのじゃからな。
そこに起こったことは一体なんだったのだろう?The Oneの機能は、人間の理論上無限の帯域をもつアナログアウトプットに対応するものじゃ。だが、プログラムであるスミスにアナログなアウトプットなどあるわけがない。しかし、ネオのThe One能力がスミスに転写、いや「伝染」したことは結果から明らかじゃ。どうすればそんなことが可能なのか?人間固有のもの、いわば無限の帯域をもつ「人間性」のようなものがプログラム化された、とでもいうのか?だが、のこされたログやスミスのコードを解析しても、なにも解らなかった。それぞれのコードの動作は想定できるのだが、どこから例外が発生しているのかを突き止めることができなかったのじゃ。あと考えられるのは、もういちどスミスを起動して動作を再現させ、実際のパラメータをひとつひとつ検証していく方法しかないのだが、危険性を考えると、うかつに再起動する訳にもいかない。シミュレーションですら、安全が保証できないということでおこなわれなかった。ネオなしでは、ヤツを止める手立てが見当たらなかったからじゃ。
ここでもまた、われわれが突き当たったのは「意識」というブラックボックスじゃった。それが量子的な処理に依存していることはわかっている。しかし、不確定性の雲のなかで何が起こっているのかを第三者が直接観察することは不可能じゃ。観察という干渉自体ですべてが変わってしまうのだからな。われわれにできるのは入力と出力を確認することだけじゃ。もしそこに踏み入ることができる者がいるとしたら、それはもう神とでもいうべき存在かもしれん。もしかしたら、それこそが究極のThe One、<The Onest>かもしれんがの。
どうも話が横道にそれているようじゃ。とにかく、あの戦争の最後の局面で、われわれマシン世界は二つの脅威にさらされていた。ひとつはネオ=The Oneだ、かれはわれわれの防御システムを単身突破し、マシンシティの中心部に至ることで自らの力を証明した。もう一つはスミス、われわれの管理システムを無効にしてマトリックスをあっという間に制圧し、マシンシティへ侵攻して来るのも時間の問題じゃった。そう、すまんがあの時点でザイオンそのものは問題ですらなかったのだ…ネオが引き合いに出すまでは。
むろん、われわれにも二人に対処する方法はあった。ネオの処分は理論的には単純じゃ。単に数の力で圧倒してしまえば結果はあきらかじゃ。だが、かれがマシンシティの中心部に来たことで、彼の処分にともなうわれわれの犠牲はかなりのものになることが予想された。
一方のスミスも、まだマトリックスに留まっているあいだに全システムを強制終了してしまえば、その動きを封じることができる。そのうえで対策を講じて処置すればやつの除去は可能じゃ。だが、強制終了に伴うリスクは大きく、なによりマトリックスに接続された人間にとっては事実上の死刑執行に等しい。その後処理と再建のためのコストを考慮すると、再建できるかどうかも危ぶまれる状態じゃった。
どちらもきわめて重大な状況だが、それが同時にやって来たのじゃ。どちらも想定外の事態であり、両方を同時に処理するとなると、さすがのマシンシティも大幅な機能低下は免れない。それはわれわれの使命達成に多大な影響をあたえ、大幅なロードマップの見直しを強いることになっただろう。
そんな中、ネオがスミスを処理するかわりにザイオンへの攻撃を止める、という取り引きを求めて来たのじゃ。われわれにとって、ザイオンなど取り引きの材料になるとは思ってもいなかった。ここまで来ることのできるThe Oneなら、ザイオンを単純に守りきることも十分可能だったろう。かれがここへ来る理由は我々に攻撃を仕掛けるためとしか考えられなかった。ところが、彼は攻撃のそぶりも見せず、あっさりとわれわれに取り引きをもちかけたのじゃ。人間との取り引きなどとうにあきらめていたマシンにとって、このときほど驚天動地な状況はなかったろう(マシンが驚くことができるとすれば)。事実、意味解析ルーチンへCPUパワーが集中し、ほとんどのタスクが押さえ込まれてしまったくらいじゃ。
彼はスミスが何であるかを知っていたようじゃ。どうやって知ったのかはまた別の謎だがね。いずれにせよ、彼はスミスが何を行っており、そしてその行為が自分自身に対して為された時になにが起こるかも把握していた。かれはスミスもろとも消滅すること、そしてそれは彼だけにしかできないことを承知していたのじゃ。
かれの申し出は、一分の隙もない見事なものじゃったよ。かれの処置がうまく行けば、スミスとネオという二つの脅威が同時に消滅する。ザイオンが存続しようとしまいと、われわれのシステムには大した影響が無い。まさに非の打ちようのないソリューションじゃ、われわれマシン世界にとっては。だが、人類であるネオ、The Oneたる彼自身のメリットはなんなのだ?彼の見ていたもの、自らを消滅させてまで求めたメリットとはいったいなんだったのだろう?一体何を信じていたのだろうか?それこそが、ネオ、The One No.6にまつわる最大の謎なのだよ。
いずれにせよ、われわれには彼の申し出を断る理由はまったく無かった。万一彼が失敗しても、残る脅威は一つだけじゃ。われわれは彼にすべてを託し、約束は果たされ、そして事態は収束した。
だが、本当に混乱が収まったといえるのだろうか?残された謎、未解決の疑問があまりにも多すぎるのじゃ。ネオの不可解な行動自体が多大な影響を残しておる。そうした謎が解き明かされるまでは、我々の活動も慎重にならざるを得ない。もしや彼はそこまで読んでいたのか?それともほかになにか見落としているのだろうか?われわれマシンにとって初めての、疑心暗鬼で不安な日々が始まった。
そして、影響の出るのは予想以上に早かった。いや、厳密に言えば、その影響であるかどうかもさだかではないのだが、とにかく、原因不明のトラブルが確実に増えはじめたのじゃ。それもマトリックスのみならずマシン世界の全域にわたる広汎な異常が検出されておる。まあ、だからこそおまえさんがたも、わざわざこんな所までやってきたんだろうがの。違うかな?
現在のマトリックスだけでさえ、モデリングへの異常な干渉すなわち例外パラメータの増加やレンダリング処理の負荷増大は問題になっておるし、その処理のためのエラー検出・修正性能の強化も追い付かなくなりつつある。あるいはおまえさんたちのようなエグザイルの増加も、あきらかに基準に外れるプログラム生成率の増加による当然の結果にすぎん。マトリックスへの亡命しいくエグザイルなど氷山の一角にしか過ぎんのだよ。
もちろん、ザイオンなどからの人間による侵入増加も大きな要因だし、現実の外部環境そのものの悪化もハードへの負荷を上昇させている。不安定なのはザイオンのみならず、地表の自然環境そのものまでもがおかしくなりつつあるようなのじゃ。というより、だからこそ人間社会自体の安定が損なわれつつあるのかもしれん。
社会的な面から見ると、大きく二つの潮流があるようじゃの。独立コロニーであるノーチラスの発生は人間世界の分裂をまねいておる。ザイオンを中心とするマシン融合派に対して、マシンシティのコントロールからも脱却した完全独立を目指すノーチラスの勢力はいまや侮れないのではないかね?実は機械サイドですら、似たような分裂が発生しておる。全システムの不安定化の大きな要因が人間の存在であることでは意見が一致しているものの、その対処方針を巡ってまったく別のアプローチを支持する勢力、すなわち人類絶滅派と人類解放派がうまれておるのじゃ。
こうしたことの因果関係がわかるかの?突き詰めて行けば、最後には必ず、あのネオとスミスに行き当たるのじゃ。彼らの影響なのか、それとも彼らのほうが事態の具現なのか、それはどちらでももはや同じことじゃ。あの革命は終わってはいない。単純に停止しているとさえ言えん。密かに静かに、そして着実に進行しているとしか考えられんのだよ。当人たちすら知らないところでな。
いつかはどこかでけりをつけなければならない、ということは早い段階から推測されておった。あのネオのソリューションも、実は真の「消滅」ではない。単にパワーがバランスされた「相殺」であって、依然として二つのエネルギーは存在しているのじゃ。いつかはそのバランスを維持しきれなくなるときが来る。そのときをただ座して待つか、それとも自らバランスを崩して根本的解決を図るか。それはもはや単純な選択の問題になっているのじゃ。
そう、バランスを崩す方法は明らかじゃ。ネオのソリューションを取り消せばよい。もとに戻って別のソリューションを探すしかないのじゃ。もとに戻すことは可能じゃ。実際、その手法の開発と準備はもう完了しておる。あとは、いつ、だれがGOサインを出すか、という状態なのじゃよ。
え?どういう方法か、だと?おまえはわしの話をきいておらなんだのか?もとに戻すのじゃ。合体したネオとスミスを分離させ、それぞれが独立した個体の状態に戻してやるのじゃ。
もちろん、ネオをもとの人間の肉体に戻すことはできない。人間の脳にそこまでの処理をおこなうことはまだできんのでな。だが、ネオの精神をAIとして取り込むことは可能じゃ。そうなると人間のアナログ的な部分は失われるが、スミスの例をみてもなおThe Oneの機能を果たす可能性は十分にある。スミスはもともとプログラムだからリロードにはなんの問題もない。
ただ、残念ながらネオだけを復活させる訳にはいかんのじゃ。復活に要する情報はすべて、ネオの肉体のなかでスミスのコードと混ざり合っている。それを取り出し分離する以上、ふたりとも一緒じゃ。まあ、スミスを単独で再起動するよりは安全かもしれんしな。あの二人は一蓮托生なのだよ、そもそもの始めからな。
そうして、別のソリューションを本人たちに追求させるのじゃ。ま、放っておいてもそれぞれのやり方で動き出すじゃろうがの。我々はただ、彼らが何らかのソリューションを見いだすことを祈るしかないのだ。もっとも、どちらかがソリューションを発見したとしても、それがどのような決着になるのかは想像もつかない。だからこそわれわれは実行をためらっておるのじゃよ。そう、ためらっておるのじゃ。最後のドア、封じられたパンドラの箱を開けることをな。
ルネが沈黙した。だれひとり身じろぎもしない。濃厚な沈黙の時が流れて行く。
「ちょっと状況を整理してみましょうか。」セラフが言い出した。
「マトリックスを含むマシン世界全体とザイオンを含む現実世界が不安定なっている。」セラフを一同見回して、異議のないことを確認して先を進めた。「その原因は不明だが、ネオとスミスの戦い以降、急激に進んでいる。」
「まあ、なんらかの関係があると見るのが妥当じゃろうな。」ルネが補足した。
「どうも。」セラフは軽く会釈して続ける。「…現在、何らかの手を打たなければならない段階に来ている。そうですね?」一同はそれぞれの思いでうなずいた。
「だが、明確に有効な対策は発見されていないし、発見される見通しもない。ただし…」そして、セラフは一同を見回した。「ネオ/スミスを復活させることによって事態が進展する可能性は高い。」
「良し悪しはともかく、状況が変わることは間違いないの。」ぶっきらぼうにルネ。
「ええ。そして、その準備は整っている。必要なのは実行するだけだ。ルネ、あなたはその実行権限をお持ちですか?」
「もちろん。だが、実行という決定を下す権限ならばだれにでもあるぞ。これまではみな責任を負うことをためらい、だれも決断しようとはしなかっただけじゃ、このわしも含めてな。」
ルネは立ち上がり、机を回って皆の前に来た。「これは、選択の問題なんじゃ。わしは、実行するという決定を自分で行うつもりはない。それだけの確信がもてないのでな。だが、だれかが責任をもって決定してくれれば、すぐにでも実行するよ。それが見知らぬよそものであってもな。」
だれもルネと目を合わせようとはしなかった。
「ネオを復活させる…。」N.K.がぽつりとつぶやく。「そんな…。」
「なにが『そんな』なの?」サティが聞いた。
「おれたち、いや、少なくともオレ自身は、単に答えを求めていたんだ。なんらかの解答が得られると思っていた…。」
「わしの説明では不服なのか?」憮然とした表情のルネ。
「いいえ、そうじゃありません。十分、それ以上です。…ネオについてこれほどのことがわかるとは期待もしていなかった。」N.K.は首を振ってため息をついた。
「だが、ここまできていきなり、しかもこれほどの選択を迫られるとは思わなかった。…そりゃあ、ネオが復活するのはすばらしいことさ。スミスとかいうヤツはよく分からんが、別にオレは気にしない。」
「あなたはそうでしょうよ!」サティが叫んじゃ。「あなたはスミスを知らない。でも私は知っている!あいつがどんなヤツで、私たちに何をしたのか…。」
「えっ!」N.K.が顔色を変えた。「まさか…」
「なに考えてるのよっ」サティも顔色を変えた。「…あいつはすべてのプログラム・シェルを乗っ取って独り占めしようとしたのよ。」
「そうか。…すまん。」N.K.も顔を赤らめ、あわてて話題を逸らした。
「だが、すべてが元通りになる、ということは、また戦争が始まるってことだろ?」
「そうとはかぎらないさ。そうでしょう、ルネ?」ケリーが言った。
「戦争というのが、マシンシティ対ザイオンという意味ならば、まあそんなことにはなるまい。」ルネがうなずいた。「少なくとも、すぐには、な。我々にとって、ザイオン、いや、現実世界にいる人類などさして大きな要素ではない。まあ、前回もそう考えて妥協したのが間違いだったのかもしれんがな。」
「どういうことだい?他に戦争のあいてでもいるのか?」さすがにアッシュは鋭い。
「だれが知ろう?だが、可能性はあるだろう。戦争というもののなかでもっとも悲惨なのは、身内同士の戦い、すなわち内戦じゃ。同じように強大な力を持つ者同士が争うとき、相互に似ていれば似ているほどそれは熾烈な戦いになる。そして結果も予測不能じゃ。不動の物体と不可抗力の衝突、そんなものは想像もできんよ。」ルネのため息が部屋中に響いた。
「人間世界のみならず、マシン世界にも分裂の兆しがあるわけだしな。」ケリーは、自らの直面した戦いを思い起こしていた。強大なウィンゲートの一党があれで黙っている訳がない…。
「でも、それはネオの復活が無くてもおなじことだよね?」N.K.が言った。心なしか声が明るくなっている。「むしろ、ネオならまた戦争を回避させてくれるかもしれないな。うん、そうだ!」
「『希望。まさに典型的な人間の錯覚、最大の強さの源泉であると同時に最大の弱さの源』か。」ルネがそらんじた。「アーキテクトの人間観もそう外れているわけではないな。」
「まあ、どちらをとっても同じことなら、いい方をとっても良いんじゃない?」あっけらかんとサティが言った。「わたし、もういちどネオに会いたい。彼、すてきだったもん!」
「こんな所にもネオの影響が出ておるの。」ルネが笑った。「だが、冗談ではなく、そういう衝動的なプログラムの増加も、明らかにThe One機能が広がっていることの証じゃ。」
「衝動的で悪かったわねっ!」「…まあまあ。」
「ひとたびネオを復活させたら、私たちにできることは何も無いのでしょうか?」マヤが聞いた。「すべては彼ひとりに委ねるしか無いのでしょうか?手助けできるようなことは?」
「それはそれぞれの判断じゃな。」ルネが考え深げに言う。「それぞれがそれぞれの思うように行動するしかあるまい。おそらく何らかの影響を与えることはできるじゃろう、その結果は解らぬが。」
「そりゃあ、もちろんネオを一人で放り出すようなことはしないさ!」N.K.が断言した。「オレはネオについて行くよ、たとえ地獄の底まででも!」
「本当に地獄になるかもしれねえがな。」アッシュがぼそっと漏らす。「でも、まあ、何もしないよりはマシだろ。」
「ほかの人たちは?何か意見はありますか?」セラフは完全に議長になりきっている。
「オレは…よくわからんが、どうせふっ飛ぶんならさっさとけりを付けちまった方が良さそうに思うな。」ヘポピーはのんびりと言った。「いつかは検問にぶつかるもんだ。」
「そうねぇ…。まあ、ここまできたのに手ぶらで帰るのもどうかという気がするわ。」フランソワにも結構過激なところがある。
「ボク?ボクはどっちでも。まあ、メンテのコツは早めに手を打つことだけどね。解んなくなったら、ばらして始めから組み直す方がはやいもんだし。やってもいいんじゃないの?」D.D.にとっては、メカも世界も一緒のようだ。
「どうやら強い反対はなさそうですね。」セラフはルネに振り向いた。「どうですか?」
「まだじゃ。」ルネは無表情に言った。
「強硬に反対するものはこれまでもおらなんだよ。強硬に実行を迫るものもおらなかったがの。強い反対がないというだけでは不十分じゃ。断固とした実行の意志表示が欲しい。全マシン世界、全世界の命運に責任をもつ覚悟で実行せよと命令する者がいない限り、わしは動かん。」
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「責任はおれがとります。」N.K.が言った。「ネオを復活させてください。」
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TOMO
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2004.10.15 編集