Written by TOMO
Based on "Matrix" trilogy
N.K.はぱっと目を開け、ちょっと頭を振ってすぐに立ち上がった。
「すぐにジャックインしている連中を呼び戻してくれ。急げ!分かってる、あっちは何とかなる。大丈夫だ、帰ってきたヤツからすぐに司令室に来させてくれ。」
驚くオペレーターにそう言うと、首の後ろのジャックに手を当て、それはもう焼けた臭いもなく丁寧に手当されていることを知った。これならOKだ。
「ありがとう…。たのむぞ。」彼はまだ呆気にとられるクルーにウインクを残し、司令室へ向かった。
司令室には、年老いた司令官がスクリーンを見つめていた。
「状況は?」N.K.が尋ねると、彼は黙ってスクリーンを見せた。
「うーん。司令官、いますぐに使える船はあるかい?」
「すぐ?ここにあるのはわしと同じように老いぼれたカスター号しかないよ。それも、チャージしなきゃならん、もちろん弾薬庫もからだ。そうでなきゃ、とっくに送り出しとるよ。」
「すぐにチャージを始めてくれ。大至急だ、どのくらいかかる?」
「なんだね、いまさら。まあ、2時間もあればチャージはできるが、それでどうするんだ?」
「あとでみんなと一緒に説明するよ。とにかくチャージだ。そういや、オレの車は?」
「へっ?お前さんがここに来た時に乗ってたやつか?車庫に入れたまんまだろう。」
「OK、それにもチャージしてくれないか、あれなら10分もあればチャージできる。」
一瞬、司令官はN.K.の顔をまじまじと見つめ、そしてその年とは思えないようにテキパキと指令を下しはじめた。
司令室に仲間がやって来るたび、N.K.はそいつを捕まえ、司令室の隅にひっこんだ。そして、顔色を変えて黙りこくった男をそこに残し、またディスプレイ・パネルに戻っっていった。そうして彼の仲間がすべてやってきて、ないしょ話が終わった時、彼は司令官に言った。
「司令官、ちょっといいかい?みんな、こっちに来てくれ」
そして、かれはネオに託された秘密を語った。
「…だから、カスター号のチャージが済み次第にみんなで来てもらいたいんだ。「山」の内側、マトリックスではネオがそろそろ仕掛けるころだ。でも、外から潰されちゃ元も子もない。イカどもをなんとかするには、あそこの猿軍団だけではむりだ。」
「でもN.K.、いくらネオが保証したからって、おれたちはそんなことはしたことがない。ほんとにできるのか?」
「おれはここでも、たしかに「あれ」を感じる。感じないか?感じているなら、できるはずだ。いまは考えている場合じゃない。行かなければならないんだ。ネオを信じてくれ!」
そのとき、N.K.の車のチャージが済んだという報告が入った。「よし、いいな?おれは先に行ってるから、できるだけ早くくるんだぞ!」
「なんだって、N.K.、一人で行くつもりか?それもあのちっぽけな車で?武器はおろか、シールドだってないじゃないか!」
「武器なんていらないさ。おれのマッハ号はな、スピードにかけてはそんじょそこらの船にも負けないしな。じゃあ。」
立ち去ろうとしたN.K.の肩をひとりの男が捕まえ、振り向かせた。
「N.K.…、おれたちもすぐ行く。だがな、それはおれたちがネオとやらを信じた訳じゃないぜ。おれたちが信じたのは、N.K.、おまえさんだ。だから、おれたちが行くまで、しっかり持ちこたえているんだぞ!」
「早く来ないと、オレ一人でセンチネルを全部片付けちまうからな」N.K.は拳をぶつけ、そして出て行った。
N.K.のマッハ号は峡谷を抜け、ひろい盆地に出た。その向こう側に「山」がある。そのとき、N.K.は「山」がわずかに見えるのに気がついた。「山」?この距離から見えるはずがない。しかし、方角は間違いない。彼は急いだ。「山」は、以前見た時の数倍の大きさになっていた。そんな、ばかな!しかし、そこには本来の「山」の数倍の大きさの黒い山が見えていた。それは、黒い霞のような、それでいて堅いドームのように見えた。そして…。彼は悟った。何億というセンチネルが密集して山を取り囲んでいるのだ。接近するにつれ、無数の点がうごめくように見える。「山」は全く見えない。センチネルでできたドームにすっかり囲まれてしまっているのだ。そして、N.K.はそのドームに真っすぐに突っ込んで行った。
センチネルの囲みを突破したマッハ号は、ゲートの脇に着陸した。着陸?二度と飛び上がれなくなるような着地を着陸と言えれば、そういうことになるが。いずれにせよ、N.K.はゲートに着いた。そのゲートでは、両手で数えられるくらいの数しかいないAPUが撃ちまくっていた。そのとき、APUの一つに突っ込んできたセンチネルが取り付き、パイロットにその触手を突き立てようとした。「させるか!」N.K.は叫び、手を向ける。センチネルは引きつり、落ちて行った。N.K.は走って行ってすこし小高い場所に陣取り、ゲート近くにいるセンチネルをかたずけ始めた。
どれくらいの時間が経ったのだろう。N.K.にはわからなかった。状況は同じことの繰り返しだった。APUが撃ちまくる。センチネルが来る。N.K.が倒す。しかし、そのうち、APUの撃つ音が次第に減ってきた。パイロットが叫ぶ「弾だ、弾を!」しかし、ゲートの中ではもはや弾薬パックが底をついていた。弾の尽きたAPUは撤退して行った −運のいいものは。ほとんどはセンチネルに引き倒され、無惨ながらくたになっていた。もう、残っているAPUは数台になってしまった。ゲートを破られると、あとは基地内の肉弾戦しかない。そうなると、男だけでなく、そこにいる非戦闘員すべてが、手に入るもので戦うしかないのだ。たとえ、爪と歯しかないとしても。それはもはや戦闘とはいえない。
N.K.は彼の横にAPUが立っていることに気付いた。それは彼のそばに立ち、しかし、まったく撃っていない。そのパイロットには見覚えがある。さっき、あぶないところでセンチネルから救ってやった男だ。わずかな攻撃のはざまで、N.K.が叫ぶ。
「どうしたんだ?!」「弾がねえんだ!」「じゃあ、さっさと引っ込め!」
すると、パイロットがさけんだ。「てやんでぇ、べらぼうめぇ!あんたが誰で何をしているかは知らねえが、とにかくイカ野郎と戦っているうちは、こっちだってしっぽを巻いてひきさがるわけにゃあいかねーよ。それじゃあ、ご先祖様に申し訳が立たないってなもんだ!ここがおいらの死に場所なら、一匹でも多く道づれにしてやる!それがAPU野郎の伝統さ!」
その言葉は、N.K.の記憶のどこかに引っかかった。「じっちゃん…」かれは、祖父キッドの昔話を思い出した。
「…いや、わしは英雄なんかじゃない。もちろんネオは違う、あの方はthe One、神様じゃからな。わしにとっての本当の英雄は、たった一人で群がるセンチネルの前立ちはだかったミフネ大尉じゃ。かれはすごかったぞ。彼が撃っているのは弾丸なんかじゃなかった。かれはたとえ弾なんかなくても、その気合いと根性で立ち向かっただろうな。…」
APU軍団の英雄、伝統のシンボル。ミフネ大尉…。気合い…?それは…。
N.K.はパイロットの方に向き、手をかざした。遠いか?いや。閃光が走り、パイロットを包む。パイロットは一瞬硬直し、頭を振り、回りを見回した。N.K.は叫んだ。「撃て!撃つんだ、アペ野郎!」APUは銃口を上げ、そして撃った。センチネルが落ちた。彼は撃ちまくった「うおおおおおおーっ」。そして、ひとつ、またひとつとAPUがゲートから出て来る。その度に、N.K.は手から閃光を送り、パイロットを捉えた。APU軍団が戻ってきたのだ。
しかし、センチネルの数は一向に減らない。数が多すぎるんだ。あせりと疲れがN.K.をいらだたせた。これまでか…。その時、センチネルで埋まった空の一角に光が走った。ついで、そこにポッカリと大きな穴が空き、雷鳴の走る空が見えた。そして、その空隙の中心を、雷鳴の轟音とともに突っ込んで来るのは、一隻の船。間に合った…。カスター号がやってきたぞ。そのぼろぼろの船は、まるで触れるものすべてをぬぐい去る魔法の箒のようにセンチネルをたたき落として行く。次第にセンチネルの包囲網にほころびが見えはじめた。地上のセンチネルはAPUたちが掃討していく…。
カスター号は着陸した。N.K.は仲間とまた拳をぶつけあった。そしてAPU部隊も帰還しはじめた。N.K.はAPU野郎どもを集めて、いったい何が起こったのかを説明した。そしてすぐさまカスター号の仲間も集め、こう告げた。
「ここはもう大丈夫だ。しかし、マトリックスはいま、モニターもきかないほど混乱している。まさにたった今、ネオが戦っているに違いない。われわれは彼を助けに行かなければ。」
そしてN.K.は、ネオのもう一つの秘密、自由にジャックインする能力を語った。「行けるものはおれといっしょに来てくれ。いま、すぐ、ここで。」
そのとき、あのAPU戦士が立ち上がって言った。「おっしゃー、任せろ!だが、どうすりゃいいんだい?おいらはまだそんな研修は受けてねーぞ。」
N.K.はニヤッと笑って言った。「おれだってそうさ。」
そのとき、N.K.はその男の胸にある縫い取りに気付いた。それは、彼には読めないどこかの国の文字だったが、何となく分かるような気がした。
…「三船」…
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2004.10.15 編集